感謝から始めよう Don’t take anything for granted.

Take ~ for granted. というフレーズは受験を経験したり英会話を習ったりする課程で一度は耳にしたことがあるのではないか。

~を当然に思う。 というような意味である。

オンライン時代の強い味方、スペースALCの英辞郎には下記のようにある。

  • take ~ for granted
    1. ~を当然{とうぜん}[当たり前・もちろんのこと・常識{じょうしき}・無論{むろん}のこと]と考える[思い込む・見なす・独り決めする]、てっきり~だと思う、~に慣れっこになってしまう
      ・I take his success for granted. : 彼の成功は当然だと思う。
      ・That kind of thing should be taken for granted. : そんなことは当たり前のことです。
    1. 〔当然{とうぜん}のこととみなして〕~を軽く見る、~をみくびる、~の有難み{ありがたみ}を忘れる[全然分{ぜんぜん わ}かっていない]、~を気に掛けない、~を正当{せいとう}に評価{ひょうか}しない

が、あえて私はこう言いたい。 “Don’t take anything for granted.”と。当然なことなんて何もない、つまり何にでも感謝すべきだ、という意味で。

世は依然不況である。避けようと思っても耳に入ってくる多くの雑念や不安などといったものを克服する上で禅のアプローチを試みてみるのは非常に効果的である。たとえば、「周囲の不況と自分は関係ない」とか「周囲と自分を比較することに意味はない」といった悟りもあるだろうし、なんだかんだ言っても自分の周りにある様々な恵まれた物事を改めて認識し感謝することもできる。いくら不況でも自然の美しさや空気までは誰ももっていかないし、一日はやっぱり24時間、生命は一人一つである。ほかにも子供の笑顔や優れたアート作品から受ける感動などは不況とは関係なくそこに確固として存在するものだ。

この不況下では、今まで自分が考えていた前提条件というものが根本から崩れ去ることがある。たとえば年金や会社、売掛金(代金)、貸したお金などなど、普通に考えれば当然もらえるはずのものがもらえなかったり、期日通りでなかったり、あるいは遅れてやってきたりする。大会社であっても倒産する訳で、下手すると何も信用できないというような疑心暗鬼に陥り猜疑心ばかりが強くなってしまう可能性がある。これではネガティブサイクルに突入するだけで、状況は何も変わらない。

思うに、今の社会はこれまでの恩恵を改めて感謝するところから再出発すべきなんだと思う。ないもの、当然あるはずのもの、ではなく今自分が有しているものに感謝をすることから始めてみる。資本主義経済特有の成功に伴う慢心があちこちに蔓延していたのを戒められているのではないか。もちろん自分自身も反省することばかりだが、最近あちこちで「思うにやはり私は傲慢だったんです」みたいな自省の弁を聞くことが多くなった。これを言える人はある意味で、もう底を打っている人なのではないだろうか。

たとえば昨日とある飲食店で昼食を取った際の出来事。もともとは家内のために持ち帰りだけを頼むつもりだったが30分かかると言われたので、自分の分だけは店内で食べながら待つことにした。ところが食事が終わってもそれができていないようだ。忘れられていたらしい。もともとは持ち帰りだけにする予定だったのを変更したのは店員も知っているし、目の前でシェフにオーダーが入っているのも目撃している。単純なケアレスミスである。が、私はチップの金額を半分以下にすることに決めた。そして一言理由を書き添えた。次回に期待をして、ということだ。昨今チップは激減していると友達の寿司マンもいっていた。15%や20%のチップをもらうのが当然だという態度では結局みんなのためにならない。嫌な店ならこういう経験をすると二度と行かなくなることもあるが、ここはひいきにしているところなので期待を込めるという意味であえて厳しい姿勢を取らせてもらった。本当なら1ドルチップにしようかと思ったが、中身をみたらちゃんとエキストラでオーダーした内容が反映されていたので、そこには敬意を表したわけである。もちろん客は自分で、本来はそんなこと当然なわけだけども。

一から始める時の一は感謝でもいい。これまで通りの普通や常識が通用しなくなっているこのご時世で普通に過ごせることがあったらそれだけで感謝だ。そう思って生活していこうと思う。

立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。在米歴20年以上。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(ともにDiscover21)など計六冊を上梓。