キンドルストアでの出版物に新たな制限 多言語対応の兆しか!?

ここのところ連日のように世間を騒がせる報道としては来週発表されるであろうアップルのタブレットとアマゾンのキンドル戦略であるが、実は一般的には報道されないニュースもあり、これは逆に我々のような既存のパブリッシャーに対して大きな影響を及ぼすようなものだったりする。アマゾンが矢継ぎ早にリリースを出す背景を理解する上では、こういったアマゾンとの既存のビジネス関係の中から得られる情報も非常に重要である。

アマゾンが今回、出版契約を変更してきたのには明らかにいくつかの大きなポイントがある。

1.アップルのタブレットへの対抗心
これは言わずもがなである。アマゾンはもともと書店であるので、そのいわば本丸を奪われるわけにはいかないので、ここのところのアマゾンは本気で事前に準備してきたプランの中から現実に最適と判断したものを迅速に実行してきている。

2.通信料の削減
今回ファイルサイズに応じて出版の最低価格を調整してきたのは、今後アップルとの競争力に打ち勝つために印税を増やそうとした場合(一部のコンテンツを70%にアップすることを表明している)にどうしてもネックとなるアマゾン負担通信料の出費を抑えたかったからである。アップルはVerizonなどの3Gキャリアと提携すると噂されているので、その点でつなぎ放題プランをもっているアップルのほうが有利になるから、アマゾンとしては通信料で書籍販売から得られる利益を削るのは極力避けたいところだ。

3.パブリッシャーのコントロール強化
今回アカウントを一つにまとめるように言ってきたのは、実はかなり厳しい要請である。何故かというと、アマゾンはキンドルストアへの出版の際に何かと理由をつけて出版をストップすることができるのだが、これをされると例えば著作権が問題になって止められているものが一つあると、それ以外の出版予定物も全部止められてしまう。もともとは銀行口座一つにつき一アカウントであったので、これを回避するために弊社も含め複数のアカウントを利用していたところは大いに違いないのだが、今回はこれを管理しやすくするために一つにまとめろと言ってきたわけである。つまり、アマゾンの言うことを聞かないパブリッシャーは全ての新規刊行物を止められてしまう可能性がある、ということだ。(ちなみにアマゾンのパブリッシャー向けのカスタマーサポートは大変お粗末なものであり、担当者の名前すら出てこない)

4.多言語化対応による世界進出とコンテンツ増加
アマゾンは今回ドイツ語・フランス語を追加することで、コンテンツ数の増加とキンドルの販売数拡大を狙っている。アマゾンはアメリカから東回りに展開するというのが私の持論だったので、カナダで話されているフランス語の次にドイツ語、というのは合点がいく。人口でいくならこの時点でスペイン語が足されていてもいいはずだが、恐らく対象としている人口を先進国にまずは絞ったのだろう。次はスペイン語・イタリア語とラテン語で拡大してくる可能性が高い。

例えば、上記のようなポイントは一般にアナウンスされていることから分析できることであるが、3については報道されない事実もあり、これが我々パブリッシャーの間では物議をかもしている。実はアマゾンは今回の契約更改に乗じて、これまで可能だったイメージファイル経由での多言語表示コンテンツに対して規制をかける動きを見せたのだ。下記に実際にアマゾンから届いたメールを転載する。

下記のメールはアマゾンの指示に従い、アカウントを統一しようと思って弊社の一部のコンテンツを別のアカウントに移そうとして再登録しようとした際に届いたものである。

Hello Publisher,

Thank you for your recent submission to the Amazon Kindle Store through the Digital Text Platform. However, please note that we are only accepting new submissions in English, German and French at this time. As a result, we will not be publishing your title(s):

(内容省略)

The Kindle community is expanding quickly and we’re working to support titles in more languages in the months ahead. You can stay up to date on the latest Amazon DTP news by visiting the link below:

http://forums.digitaltextplatform.com/dtpforums/index.jspa

If you have any further questions, please feel free to contact us at [email protected].

Thank you,
Amazon.com

まずはアカウントを統一しろと言っておいて、再登録する際にこのようにしてコンテンツをふるいにかけなおしているのである。これはどういうことか?通信料の削減からこの行為に及んだとしたらかなりの横暴だといえる。マルチアカウントもイメージファイルによる多言語コンテンツももともと規制の対象外であった。日本語学習を対象にした弊社のコンテンツは順調に売れているので、消費者はこれをサポートしているということであり、何よりも当社が得る利益の倍をアマゾン側は得ているにも関わらず、である。(ちなみに今回の件に関しては、こちらもリスクを感じたのでまずは出版保留となっていたもののみを移してみたら案の定、といったことだったので今のところコンテンツの売上には全く影響がでておらず対先月比で40%以上の売上となっている)

しかし、一見横暴に見えるこの行為も、実は裏があるのではないかと見ている。アマゾンは思っていたよりも早く東アジア言語などの多言語対応を進めていくのかも知れない。その際にアマゾンは今あるコンテンツを一度整理して仕切りなおしをしたいと図っており、その際に自社がStanzaの買収の際に得たコンテンツなどを先に販売したいと考えているのではなかろうか。

来週発表されるアップルのタブレット(iPad だとか Slateだとか言われている)が発売されるまでにはまだ時間があるので、アマゾンはアップルのリリースに備えて準備をしているようにも取れる。現状販売されている電子ブックリーダーの中ではキンドルほど考えられたビジネスモデルで成り立っているので、アマゾンにはさしたる脅威ではないが、やはりエンドユーザーとデベロッパーの心をがっちりつかんでいるアップルには恐れを感じていると思う。その観点から言って、このタイミングで上記のようなメールを送ることがパブリッシャーのやる気をそぎ、キンドル離れを起こすことをアマゾンが想定できない訳がないので、そう考えるにいたったのだが、果たしてどうなることやら。

立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。在米歴20年以上。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(ともにDiscover21)など計六冊を上梓。