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下記のような内容が先日EBook2.0 Forumでアップされた。どうやらあちらでは「日の丸電書フォーマット」を巡って大きな議論になっているようだが、議論大いに結構である。鎌田氏はソフトウェアの専門家でもあるわけなので、氏の反論に期待したい。

鎌田様

プロジェクトの締め切りにしばらく追われておりまして、返信が遅れました。NBAファイナルは昨夜(11日)第4戦が終わり、レイカーズが負けて対戦成績が2対2のタイとなり、こちらではすごい盛り上がりを見せています。ネットで調べると、残り2戦あるLAでの両試合のチケットの相場は一席400~54000ドル(!)とすごく高騰しているのが分かります。不況とはいいながらも、あまりにもたくさん競争相手が倒れてしまい、勝ち組は儲かりつつある構図ができているのだと思います。と言ってもここLAの失業率は現在12.3%と依然高水準で、しかもこの数字はあくまでも「失業保険受給者」の数と言われています。アメリカにはビジネスで独立している人も多いですから、実質はこの倍あったとしても不思議ではないように思います。

前回の「パンドラの箱」へのコメントありがとうございます。たしかに神話の最後には「希望」が残っていたということですが、これはアップルによって、これまでマイクロソフトやGoogle、アドビといった巨大企業の主導で動いていた市場の流れが変わる可能性が見えたということ、そしてより「オープン」で革新的なコンテンツやプラットフォームが生まれてくるということではないかと思います。アップルの素晴らしいところは、市場の声を反映させながら自分たちのビジョンを確実に実現していくところで、スティーブ・ジョブズはまさしくアーティストだと思います。これからはこのように市場の声を着実に自身のビジネスモデルに反映させていくことのできる企業が生き残っていくことでしょう。激変が続く日本での政治も同じではないかと思うのですが。

“EBook2.0″がもたらす読書体験については私も同感です。私は去年の春から一貫して「電子出版の醍醐味は紙出版ではできなかったことを実現することだ」と力説してきています。これまでの印刷本のユーザーエクスペリエンスをそのまま踏襲するだけでは何のイノベーションも生まれません。PCとWebでできていたことをいまさら端末を変えてやりなおすだけでは、何の芸もないばかりか、長い目で見て出版の市場規模が縮小していくだけだと思います。。。

この点で、私は電子出版とソーシャルメディアの専門家として、できるだけ目先の動きにとらわれずに大局観をもって市場を分析していきたいと考えています。また、私はただのジャーナリストではなく電子出版業を生業とする者でもありますので、そういう点でビジネスチャンスを見つけたら果敢に攻めていきたいとも考えています。先日書き上げた自著『電子ブック開国論』(出版準備中、版元未定)で説いた「開国論」というのは日本独自の武器をうまく見つけて、それをもって世界に打って出るべきだという考えです。もちろんこれを達成するためには、書き手(作り手)も読み手も考えを変えていかなければならず、そのために必要なのはより実用的で採算性の高いプラットフォームとビジネスモデルの構築だと考えています。これらはクリエイターとしての書き手や、消費者である読み手の仕事ではなく、プロデューサーである企業群が遂行していくミッションです。しかし、残念ながら今のところこういった大局観をうまく見据えた動きをしているところは少ないようです。

さて、今回は頂いたテーマである電子出版と教育の可能性についてお話したいと思います。3つのお題を頂きました。

1. 学生はどんなE-Book/E-Readerを必要とするのか
2. 教育/教科書専用E-Readerに専用機は必要か
3. 教育市場においてニッチは成立するか

1. 学生が求めるE-Book/E-Readerとは

学生が必要とするE-Readerですが、まず最初にこのポジションを狙ったのがAmazonのKindle DXでした。最初のKindle(6インチ)よりもかなり大きなこのDX(9.7インチ)を私も所有していますが、画面はやはり見やすくPDFビューワーを搭載している点や、画像が縦横に切替わる機能などは、この端末をかなり便利にしていると思います。しかしながら、Kindle DXは学生たちには支持されず、今アメリカでもっぱら話題になっているのはやはり多機能端末であるiPadです。リリース直後にアメリカの名門大学のいくつかが「帯域の問題」からiPadのキャンパス内での使用を禁止した、という話が話題になりました。その一方では、新入生に向けてiPadや MacBookを無償提供することを打ち出している学校もあるようで、これは人気があり裕福な子女をたくさん抱えている大学と、少しでも多く良質の学生を獲得しようと躍起になっているアメリカの大学の姿が垣間見られます。日本でも恐らく同じような話がもちあがると思いますが、インターネットを巡るインフラがよく整備されている日本では、少なくとも「帯域」による問題はおきないのかも知れませんね。

私は、近い将来学生たちの間にE-Bookが浸透するのは時間の問題だと見ています。これまでにもアメリカでは、企業が大学のキャンパスを自社製品を普及させる場所として活用しており、製品を寄付するなど積極的な支援活動を行ってきました。これを最初に有効活用して学生から強い支持を受けたのが、他の誰でもないアップルですし、その次にはDELLやマイクロソフトが盛んに自社製品を売り込みました。私が通っていたコミュニティカレッジでは、当時マックが主流でしたが、UCLAに編入してみるとすでに主流はWindowsに移行しつつありました。御存知のように、UCLAはアメリカで最初にインターネットの接続実験が行われた2校(のちに4校)のうちの一つですから、ネットインフラは当時からかなり整備されており、接続速度も他のどこよりも圧倒的に速く、Bruin Online という学生対象の独自プロバイダ事業まで手がけていまして、これは今日も存在しています。

学生が求める主要な機能としては、

1. 軽い (アメリカの教科書は日本と比べてかなり分厚く重い。学生は常にバックパックにそれらを詰めてキャンパスを歩きまわるため負担が多い。)
2. 電子書籍版の教科書が安価で購入できる (学費も高騰しているため、中古教科書市場は大きなものとなっています)
3. インターネットに接続できる(メールやウェブサイトのチェックなど)
4. カラーで見やすい (やはり教科書は図解などが多いのでカラーのほうがよい)
5. コメント機能やブックマーク機能 (それらを共有できればもっといいのかも知れません)

などがあげられると思います。ちなみに、(日本の大学はどうか知りませんが)アメリカの大学では板書というものがあまりなく、教科書への書き込みやノートテーキングが成功のために重要なカギとなっています。欠席をしたりノートをうまく取れなかった学生のために、授業ノートが売買されたりするくらいです。アメリカの学生にとって、いかに学期ごとの教材費を下げるかは死活問題ですから、それらをサポートするような内容に関しては無条件に受け入れられると思います。

2. 教育/教科書専用E-Reader端末の是非

先日私の「意力ブログ」で電子書籍ベンチャーであるKno社が開発した電子教科書端末についてのエントリーをあげたところでした。まだ発売日は未定で、価格も1,000ドル以下ということしか分かりませんが、私はこの端末のデモと発表内容を見て面白いと思いました。1,000ドルという価格は一見バカバカしく映ると思いますが、学生の本分は勉強であり、デモ動画で実践されているような内容が可能であるならば、この端末を面白いと思う学生は多いと思います。特にソフトウェアの面で複雑な理数系の数式や記号などを簡単に使えるものというのはそう多くなく、学生などはMathematicaのようなソフトをよく利用していますが、このソフトは普通に買うと2,000ドル以上もするようなソフトです。

このテーマを考えるときには

1. アメリカの学生はもともと計算機に対する依存度が高かったため、教育用端末に対しての心理的抵抗感は低く、依存心が高い。
2. テキストが重く高いため、それらを軽減してくれる電子教科書端末は重宝される
3. 企業がPRの一環として大学を取り込むことに熱心である
4. これまでのような専用ソフトを代替するような簡易アプリが登場するかどうか
5. 教育専用端末か、汎用機向けの専用アプリか?

という点がポイントになるように思います。そしてこれらは日本の大学とは事情が異なるかも知れません。また、電子教科書専用端末がノートPCやスマートフォンと競合するかどうかということも大事な点だと思います。私がiPad(に代表されるタブレット機)を「パンドラの箱」と呼ぶ理由の一つは、このようなシェアの奪い合いです。今やアップルはニッチではなくなってきているわけですから、 iPadが他の端末のシェアを奪っていくことも十分に考えられるわけですし、もちろん他のハードメーカーも気が気ではないと思いますので、Android 端末(あるいはChrome OS搭載機)に対しての期待は否が応にも高まると思います。

3. 教育市場においてのニッチ

ここでおっしゃられている「ニッチ」がどのような観点でのお話なのかよく理解できているか分かりませんが、一般的な話をすると教育市場におけるニッチは十分に存在しうると思いますし、またビジネスチャンスとして見た場合には、むしろ一般的な電子出版市場よりも成功する可能性が高いのではないかと思います。少し長くなりましたので、以下にポイントだけを列挙したいと思います。(写真はいずれもKnoのdigital textbook)

1. 論文作成の際などに使用する学術論文の検索および寄稿機能
2. 国際学術論文の検索(これは盗用や剽窃といったものを防止するためにも使われます)
3. Web上では検索できないような専門的資料、格式のある資料の検索(例えばLexis/Nexisや大学図書館の資料などがこれにあたります)
4. チュータリングやフォーラムなどの意見交換に関するサービス
5. 専門的な記号や図式などを表現するのに特化したアプリや端末の開発および設計
6. 図面に関するもの(図面作成、アーカイブ、補正など)
7. 医学書などの専門的内容を表示するに特化したもの
8. MCAT(医学系)やGMAT(経営系)、LSAT(法科系)などの専門大学院入試から始まり、司法試験(Bar Exam)や会計士(CPA)試験などの準備に関連するもの。あるいはその職にあるものが使う専用の端末および辞書
9. 音楽業界における譜面や歌詞などに関連するもの
10. 年表、絵画や古文書などの(古)美術品などの閲覧に特化したもの
11. NPOの活動報告書や上場企業の決算書などをアーカイブしたようなもの(MBA学生用)
12. 日本語や中国語などのアジア言語、あるいはアラビア語やアフリカの言語などマイナーな言語を学ぶためのもの

上記はほんの一例ですが、これらを必要とするユーザーは一般ユーザーとは異なり情報に対する対価の支払いを惜しまない人たちなので、数は少なくともビジネスとして成立する度合いが高いと思います。この市場の規模を理解する上で障壁となるのは、日本における高等学位(修士以上)の保有者の割合が米国に比べ圧倒的に低く、十分な認知とリスペクトが得られていない点ではないでしょうか。

ところで最後に興味深い話を一点。2009年のUS Census(国勢調査)によると、25 歳以上の男女で修士以上の学歴を保有する者の割合は10%以上であり、25-29歳ではなんと女性が6割を超えるそうです。一方日本の電子出版市場においては主流がマンガと携帯であり、中には成人コンテンツの割合がかなり高いと聞いています。私は初期にKindleを買い支えた人たちの中には、活字好きであまり技術に詳しくはないが環境に敏感な白人のキャリアウーマンや教育関係者が多かったのではないかと考えているのですが、この統計を見る限りだけでも日本とアメリカにおける電子出版市場の成熟過程において、大きな方向性の違いがでてきそうなのが見て取れると思います。

そして、ギリシア神話ではたしか「パンドラ」はゼウスによって作られた人間の女性でしたね、「パンドラの箱」に残されたものは「未来を予知する災い」。日本でiPhoneユーザーの中に女性の割合が増えているということからも、日本の電子出版の方向性について女性がカギを握っている、という何とも意味深なメッセージがここには込められているような気がするのですが、いかがでしょうか? (立入、6月11日)

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