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さて、方針が見えれば後は技術的な検証である。このために、我々はKindleを新旧合わせて3台購入している。もちろん後ほど発売されて大画面が話題を呼んだKindleDXも購入してテストした。Kindleにはメールアドレスが付与されており、通信の従量制課金がかかるがPDFファイルが送信できるようになっている。あるいはUSBケーブルを接続してコンテンツを転送することが可能である。ここでは総力を挙げてフォーマティングの研究をして、日本語のコンテンツをどのように表示させるのが一番なのかを徹底的に調べた。その結果、JPEG と HTML を融合させる形で、フォーマットとしては比較的簡単に日本語のコンテンツをアップすることができるという結論にいたった。もちろんイメージはテキストに比べて重いので全体のファイルサイズは大きくなる。これが後にAmazonがAppleに対抗して印税率を引き上げようとしてきた際に行ったルール改訂の根拠となるものである。他の章でもふれたが、Kindle端末ではAmazonが3Gの回線量を負担することになっているが、Appleは(キャリア経由の)ユーザーの負担である。

ここで作成したのが「ひらがなフラッシュカード」と「カタカナフラッシュカード」である。これらはちなみに未だに売れ続けており、最高でKindle Storeのランキングで40万タイトル(当時)の中で上位1%に食い込んだこともある。パブリックドメインものも何故かそれなりに売れた(当時日本語のコンテンツは珍しかったからだろう)のだが、やはりこれらのフラッシュカードが当社のオリジナル作品ということで、小さな成功ながらも筆者はうれしく思っていた。それはシステムさえ構築されれば、将来は約束されたようなものだと思ったからだ。それくらい電子出版事業というのは論理上は「掛け算」で動く世界だと分析したわけである。このシリーズでは後に「小学校漢字シリーズ」を作成するに至った。小学校1年~6年生までの漢字をそれぞれ学年別に分けてフラッシュカードにしたのだ。表と裏のフラッシュカードにするというのは私のアイデアだった。その次にも百人一首シリーズやタトゥー向けの漢字シリーズなどを出版して、3ヶ月くらいすると売り上げも飛躍的に伸び始めた。表紙のデザインが既存の紙出版と同様にそれなりに重要だということにも気づいたし、作品集をつくって大量の数を出せば、作品の知名度とは関係なく、第1作が最初に売れていくということも分かった。これはいける、という確信を持ち始めたのはそのころだった。

しかしここで問題が発生する。アマゾンは革新的なように見えてその実非常に保守的な会社であることが今回の一連の電子出版を通じてのトラブルでよく分かったのだが、その最初のバッドニュースである。まずパブリックドメインのコンテンツの著作権についての開示を求められたのである。それまでコンテンツは出版差し止めだという。この時問題になったのが日本を代表する女性詩人、与謝野晶子の作品群だった。(ちなみに当社はこの時数百に及ぶパブリックドメインのコンテンツを準備中だったので、これは寝耳に水だった)もちろん実際にはアマゾンが要求してくる内容を一つ一つ丁寧に対応していけば問題は解決されることが多い。この時もネットから情報を引っ張り出してきて、英訳したりなどしながら著者の死後50年以上が過ぎており、肖像権などの問題はさておき、著作権としてはなんら問題が発生しないということを伝えた。しばらくしてから、許可する内容の通知があり、一部のコンテンツは無事に出版されたのだが、いくつかは何故か出版されずに未だにコンテンツと売り上げを管理するプラットフォームであるAmazonDTPの画面上でPending(保留中)になったままである。

(AmazonDTPの画像 割愛)

この問題が発生した時が最初の挫折だった。実際これで少し出鼻を挫かれた我々は2ヶ月ほど新タイトルを導入しなかった。そして、その間も日本語のコンテンツよりは英語圏向けに作られた「日本語学習用」コンテンツの方が順調に売れていた。もちろん市場がそちらのほうが大きいので当然の帰結であった。

この次に筆者が目をつけたのが日本語の昔話集であった。このあたり、アイデアはネットを検索すればいくらでも落ちている。私にとって電子出版事業はまさにゴミを宝に変える廃品回収あるいは資源再生事業のようなものだったのである。これには当社が翻訳会社であったことも幸いしたし、もともとオンラインゲームのローカライズをやっている際に培ったデジタル翻訳のノウハウが活かされた。(もちろん元を返せば、社内にあるリソースを有効活用するためにということで電子出版事業に行き当たったのだから当然なのだが)これによって投入されたのが「桃太郎」と「浦島太郎」の二作品で、後に「鶴の恩返し」が追加される。これらにはコンテンツ上の工夫がされており、それぞれの作品には「英語」、「ひらがなのみ」、「漢字交じりの日本語」の3つの異なるバージョンが収録されている。

と、ここまでは一見順風満帆に進んでいるかのようだった。売り上げも対前月比で数倍に膨らむこともあり、コンテンツを極力コストをかけない形で提供して数を増やしていけば認知度もあがり、後は売り上げが膨らむのをまっていれば、各月の末日から45日~60日ほどで入ってくる入金を楽しみにしていればよい。しかも相手は超一流の上場企業なので取りっぱぐれるなんてあり得ない。そう思っていた私は新たな挫折に直面することになる。それがアマゾンの一連のルール改訂騒動である。詳しくは「意力ブログ」に散々書いたので、そちらを見ていただければと思うのだが、アマゾンは英語に加えてフランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語という欧米言語を追加していった際にいくつかの主要なルール改訂を行ったのだが、これらの一つが私の事業の裏目にでることだったのだ。アマゾンはこの際に下記のようなルール変更を一緒に行った。後に物議を醸したのは「印税率アップに伴うアマゾンルールの遵守」ルールだったが、もとからISBNがついたコンテンツを保有しない私にとっては下記の二つのルールのほうがよほど致命的だった。それは、1)複数アカウントを保有している場合は一つに統一すること、そして2)対応フォント以外の言語のコンテンツのアップロードは認めないとしたことだった。(続く)

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