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今はどういう時代なのか

この原稿を書いている2010年は「電子出版元年」と言われている。しかしその意味を理解できている日本人がどれだけいるだろう。筆者は主にITやビジネスコンサルの仕事を生業として北米に在住しながら年に7、8回日本に出張するという生活を過去数年間続けてきているが、電子出版に限らず海外から近頃の日本を見ていて歯がゆい思いをさせられることはしょっちゅうで、感覚が麻痺しかかっているほどだ。最近の最たる例はアメリカのApple社が出した多機能携帯電話端末のiPhone(アイフォーン)だった。アメリカから始まり世界でものすごい売れ行きを見せたこの端末が、日本で普及しないはずと筆者を含めたアメリカ在住日本人の多くが思っていたが、発売当初に市場から聞こえてくる意見は否定的なものばかりだった。

しかし、売り込むのを諦めなかったソフトバンクの努力の甲斐もあってか、結果的には国民的アイドルスマップをCMに起用した広告戦略が最後の扉をこじあける感じで、シェアを大きく伸ばし始めたと聞いている。筆者もiPhone(現在二台目)の愛用者であるが、この端末は「スマートフォン」という通称をもってはいるものの実はまだまだ電話端末としては使いづらく、もっぱらセカンドフォンとして利用している。というか、二台目に使うことでその快適さや利便性が一気に向上し、使い勝手がよくなると常々感じている。つまりどこにでもつながるPDAの進化版としてである。この観点からみるとこの端末は本当にすばらしい。ネット接続は快適だし、日本語を含む多言語対応もブラックベリーなどの競合多機種に比べて格段によい。またiTunes(ITS)上のアプリストアである”AppStore”には世界中のデベロッパー(開発者)が開発した無数のアプリが並んでおり、常にしのぎを削っている。中には一攫千金を狙う者も多く、野心的な作品も多いので、必然良質なものも多くなり、魅力のある一大市場になっている。筆者の同端末上の画面はすでに上限近くに達してしまっていて、少しでも良いものがでるとそれを使えないアプリと置き換える、というような状況になりつつある。まだまだ儲かるアプリは少なく、ビジネスとするには厳しいという開発者側の声もあるが、このアプリの多さがiPhoneの人気を支えているのは紛れもない事実である。しかし、残念ながらしっかりとしたグローバルな市場分析力と国際感覚がいまだにもてていない日本の製造メーカーや開発会社はこの波に乗り切れず、出だしが遅くなったばかりに先行者利益を享受する海外の競合他社に対して優位性を出しきれないでいる。

後ほど本書で詳しく説明するが、これらの現象は電子出版においてもまったく同じように起こっている。ウェブサービスや携帯電話市場などと同様に、またしても日本が海外、特にアメリカの後塵を拝するような状況で、世界の市場に出遅れてにしまいつつあるのが海外からいると手にとるように分かる。筆者が書を執筆するに至った経緯の中で最も大きい原因が、先にも伝えたこの何とも言えない歯がゆさだった。とは言いながら、実際に電子出版事業を他社に先駆けて米国で本格展開し始め、このような本の執筆を思いついた2009年の夏ごろの時点では「何故電子出版の本を電子ではなく紙媒体で出すのか?」といういわば自家撞着的な矛盾に明確な答えを出すことができなかった。また、ともすれば目の前の仕事に追われがちになる毎日の中で、色んなことに気を奪われてしまいがちな私にとって、ずっと書き溜めていって本にするということもそうそう簡単にはできそうもなかった。その代わりに、紙媒体ではなくまずはブログにして少しずつ記事を書き溜めていこうと思った。それが現在ほぼ毎日の頻度で更新している「意力ブログ」(意力は「いちから」と読み、筆者のニックネームでもあるWill(意志)と起業という意味の「一から」をもじっている)の本格的な始まりであった。

実際に始めてみると、なかなかこれが新し物好きであちこちに発想が飛んでしまう自分にとってブログがなかなか性にあっているということに気づいた。何しろ常に新しいモノについて書くことを読者の方から望んでくれるのだ。小さい頃から国語人間で通ってきた私にとって、ネットなどで調べた最新の情報や市場トレンド、そして自身の分析による見解などを書き綴るという行為はとても楽しかったし、毎日アクセスという形でフィードバックが返ってくるのも刺激的だった。電子出版事業を始めて、この事業を支える技術とビジネスモデルが世界を変えるほどのインパクトをもっているということに気づいた時、私はこれを「金脈」だと周囲の親しい友人や会社のスタッフに話していたのだが、そうそう簡単には同意を得られなかった。しかし、そんな事情も一変することになった。昨年9月にアマゾンがキンドルの国際版(Kindle2)を日本に出荷し始めたのをきっかけに、日本でも電子出版が話題になることが多くなり、それに応じるような形で電子出版についての先進的な話題を独自の観点で突っ込んだ同ブログのアクセスもうなぎのぼりに向上し始めた。(未だにアクセスの1割弱は筆者が(大画面版の)KindleDXについてレビューした記事であり、これはアメリカでのKindleDX発売と同時にサンプルとして購入したものであるから、もちろん日本には無かった、というかこの時点ではほとんどの日本人はKindleの存在すら知らなかっただろう)そこで本書のテーマでもあり、自分自身をも悩ませた「本」と「電子」の狭間にあった壁を取り除き、筆者の気持ちを軟化させたのは、今年に入って日本で新たに組むことになった電子出版のパートナーの何人かが言ってくれた「名刺代わりに一冊」もっておくべきだという言葉だった。そうか、確かに名刺は依然紙が主流である、では名刺と履歴書がわりになるような著作を一つ紙媒体でもっておくのも決して悪いことではない、そう自然に思えたのが本書を本格的に執筆するきっかけだった。善は急げというが、そう思い立ち周りに宣言してまわった私は、ロサンゼルスに戻る帰りの飛行機の中でさっそく本書の構想、章の構成、キーワードなどをiPhoneのメモ機能を使ってまとめ始めたのである。

(続く)

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