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電子出版を分かりやすく理解するためにはコンテンツそのもの以外に、いわゆる「フォーマット」の議論は避けて通れないところだ。これは従来の出版でいうところの「体裁」あるいは紙質の選択の部分にあたると言えばよいだろうか。DTP(デスクトップパブリッシング)から考えると電子出版の歴史はそれなりに長いので、フォーマットもその間数多く生成されてきた。それぞれにメリットやデメリットがあってそういうことになったのだろうが、本書ではあまりそれぞれのフォーマットの種類を説明することはせずに主だったものとその利用先をリストアップするに留め議論を先に進めることにする。

主だった電子書籍のフォーマットのリスト(チャート割愛)
EPUB、MOBI、PDF、JPG、TIFF、AZW,etc…

フォーマットの議論がここであまり重要ではないというのにはいくつかの筆者なりの根拠がある。第一に、多くの場合フォーマットはこちら(書き手や出版社側)で決めることではなく、プラットフォームを提供する側が決めることであり、通常はこちらの意向に関わらず一方的にそれらのフォーマットを利用するように強制されるわけであるから読み手が主導権をもつ者でない限りフォーマットの論争そのものは大きな意義をもたない。例えば現在電子出版の主流となっているのは世界一のオンラインブックストアという強力な背景をもったアマゾンが指定しているAZW形式であり、これは元をただすと同社が買収したMOBIPOCKETの.MOBIフォーマットに近しいものである。もう一つはiPadという多機能タブレット機をリリースしてきて、KindleStoreに並ぶ電子書店の最大手となりそうなiBooksというプラットフォームを提供してきたAppleが採用したEPUB(イーパブ)形式であり、こちらは米系大手書店のBarns&Nobles(バーンズ・アンド・ノーブルズ)のNookやソニーの電子端末「リーダー」シリーズでも採用された規格である。筆者は恐らく独自形式を採用しているアマゾンに対して、AppleがEPUBを採用してくるのではないかと踏んでいたが、果たしてその通りだった。噂によるとアマゾンも近々登場する次世代KindleではEPUBを同時採用せざるを得なくなるのではないかということだ。それくらいEPUBフォーマットは世界に浸透しつつある。そして、これ自体は日本に何ら不利益を与えるものではないということを訴えたい。もっと考えるべきポイントは他にたくさんあるのだ。

フォーマットの議論が不毛に終わる可能性があるもう一つの理由、それは多くの場合重要なのはフォーマットではなくて実は表示「フォント」の議論であり、これを決めるのは電子ブックリーダーという専用端末をつくるメーカーだからだ。例えば現在アマゾンのキンドルストアでは45万冊という電子コンテンツが配信されており、(採用順に)英語・フランス語・ドイツ語・イタリア語・オランダ語・スペイン語という言語に対応しているが、これらはみな元をただせばKindleがUTF-8というフォントフォーマットを採用しているからできることである。つまりEPUBというフォーマットよりもUTF-8という選択をアマゾンが取ったことを重要視すべきである。(アップルも同様だ)しかも続きがある。本来UTF-8というのは日本語や中国語のようないわゆるダブルバイト文字にも対応しているので、AmazonがKindleにフォントさえインストールしてくれれば日本語でも中国語でも読めるようになるのは技術に詳しいものなら誰にでも分かっていることだ。(すでに日本語ハックした画像がネットにも出回っていたのでご覧になられた方も多いと思う)それなのに、アマゾンはこの原稿を執筆している4月中旬時点においても、まだ日本語フォントに対応してきていない。このため、もともと筆者が運営するLMDP(LocalModeDigitalPublishing:)でも日本語コンテンツ、あるいは日本語学習コンテンツをテキストではなく「イメージ化」してコンテンツ提供のプラットフォームであるKindleDTP上にアップロードするという形をとって配信してきたのだが、アマゾンは2010年1月15日の契約内容変更時に、一方的にルールを変更し本来ならばグレーゾーンで容認されていたはずの外国語コンテンツを新たにアップロードすることを禁止するという信じられない行動にでたのだ。

この背後にはアップルのiPadとの壮絶な出版社の囲い込み争いで不利にならないように印税率アップ(もともとはアマゾンは35%、アップルは70%)というカードを切りたかったためと考えるのが筋だろう。というのもユーザーがキャリアを通じて通信料を定額負担するiPhoneやiPadと違い、キンドルの3G回線(Sprintというキャリアを使用)はアマゾンが負担しているからだ。イメージ化されたファイルは、マンガなどでもそうだが、テキストファイルよりはかなり重たくなるので、その分通信費用がかかる。これをけん制するための動きというのが一つと、もう一つには誰もが配信できる著作権切れの作品、いわゆるパブリックドメイン作品の濫立を防ぐ、あるいは自社の利権をそこで確保したい、という動きも垣間見えるのだ。(アマゾンは以前スタンザという電子出版会社を買収した際に日本のパブリックドメイン大手の青空文庫のコンテンツも入手しているとされている)ちなみに、実はは独自でシェークスピア作品などの英語版のパブリックドメインコンテンツをKindleStore上で大量に「無料で」販売しており、筆者はこのコストを本当にAmazonが負担しているのかどうかということを訝しがっている。KindleStoreのルールでは一般の出版社(パブリッシャー)はコンテンツを販売する際の最低価格を99セント(約90円)に設定されているのに対し、運営元のAmazonだけは無料でコンテンツを販売できるようになっているのだ。場合によればこの行為は公正取引の概念に違反しており、またもしかするとこれらの配信コストを「クラウド的」に他の出版社に負担させている可能性も無くはないのではなかろうか。

フォーマット論争について気になるもう一つのポイントについて話そう。(一部の向きは非常に敏感になっているようで、敢えて語弊を恐れずに言えば)それはEPUBという耳慣れないフォーマットが実は、よくよく中身を見てみると電子出版専用のフォーマットというほど大それたものではなく、(ごく簡単に言えば)いわゆるZIP(ジップ)という圧縮形式にごく近しいものであり、それに電子書籍用のヘッダーとフッターをつけたものであるという表現がぴったりくるほどのシンプルなものだということだ。むしろ肝心なのは中身のほうで、これから必ず話題になるマンガなどを処理する際にはこれらをJPEGのフォーマットに落とし込んで、一ページを一枚として表示されるような形で今度はHTML 形式に焼き直し、それを圧縮してEPUBにするという作業が必要になる。これがテキストの場合はイメージではないので、元のファイルがDOCファイル(MSワード)でもPDFでもむしろHTMLからでも構わないのだが、目次などの箇所でハイパーリンクを付けたりすることを考えるとDOCやHTMLが作成には適しているようだというのがスタッフの作業を観察してきた私の所感である。(DRM付のものとそうでないもの、DRMの種類、という話もあるが、これも本質的な事項ではないと考える理由があるので、また後で述べることにする)これも全体を理解する上で大事な「発想の壁」である。前述の説明でこのコンセプトを理解頂けた方にはこういうところにひっかからずに、もっと本質的な部分の議論に進んで頂きたい。

フォーマットについての最後のポイントは、これは半ば苦言とも取れるかも知れないが、フォーマット競争に陥ることのリスクとデメリットがあまりにも大きいことである。特に今回の電子出版ブームはあくまでもKindleのような専用端末が主流になって起きたものであるので、日本側がいくらマンガのような大量のコンテンツをもっているからといって、独自端末という配信プラットフォームを全く有していない点でもはや選択の余地はないのである。最近ようやく終結したDVD-ROMを巡る規格戦争でも、両者痛み分けに近いようなダメージを両陣営とも被ったのではないか。結果的には出来レース感満点の(両規格対応の)コンボドライブに移行したまではよかったが、そうこうしている間に、時代はオンライン配信に移行してしまった。歴史から学ぶとすれば、今回もより注目すべきはフォーマットについてではなく、フォントの対応やコンテンツや著作権の問題をどうするか、という部分である。これはDRM論争についても言えると思うが、もともと紙媒体で複製や貸し借りが実質いくらでもできた本というコンテンツをデジタル化してオンライン販売するからといって、ガチガチのDRMでカバーするというアイデア自体がそもそも時代錯誤甚だしい考えではなかろうか。例えばEPUBにもDRM規格があるのだが、こういう細かな規格の分裂は、コンテンツを購入するストアごとに規格が異なる事態を招くなどして買い手側にとっては混乱の種であり、市場の拡大を阻む迷惑な問題に他ならず、大きな取りこぼしにつながるので今電子出版の波が来ている時期を逃さぬよう、出版業界の各方面にはさっさと次のステージに進んでもらいたいものだ。論議するべき点は他にもっとあるのでぜひ読み進んで頂きたい。

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Hatena Bookmark - 第1章 フォーマットについて – 電子ブック開国論 (5)
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