第1章 イーブックリーダーという専用端末 – 電子ブック開国論 (6)

電子書籍の閲覧には大きくわけて二つのモデルがある。それは電子ブックリーダーという専用端末を通して読むモデルと、特別に専用端末を介さない汎用性をもったフォーマットとしてのモデルである。前者の代表としてはAmazonのKindleシリーズがあり、後者にはPDF形式などでPCにダウンロードして読むものがある。電子書籍や電子出版という言葉自体にまだまだ明確な定義がないのと同様に、この専用端末も「電子ブックリーダー」や「電子書籍リーダー」、あるいは「イーブックリーダー」など様々な名称で呼ばれる。
また中にはSKIFFのように専用端末でありながらも垂直統合型のプラットフォーム(*後述)に関わっていないものもある。タブレットPCと呼ばれるものもその部類に入るが、4月3日に満を持して発売されたアップル社のタブレット機であるiPadはAppStoreと呼ばれるアプリケーションストア上で販売されているアプリを通じて他の書店からのコンテンツもダウンロードできるようになっている点でハイブリッドである。またKindleStore自体も”KindleforiPhone”や”KindleforPC”などの他の端末向けのソフトがでており、PCやMac、あるいはiPhoneなどでも閲覧が可能になっている。これだけでもかなりややこしくなってくるので、下記に図解してみた。(図解割愛)

本書では話が複雑になってくると、一度簡単に整理するという手法を用いるように努めたいと思う。ここでの内容についても一歩下がった観点でまとめると、要は「アマゾンは本が売れりゃそれでいい」のだ。これはアップルも同じで、彼らは「サファリ」などのOS、あるいは「iPhone,iPad」などの端末を売れればそれでいい。そのために必要なのはユーザーの囲い込みであり、彼らは他の企業が悔しくて地団太を踏むくらいこの囲い込み作業に徹底してきており、実績を出している。この「囲い込み」というのは規格争いにせよ流行りの「垂直統合型」ビジネスモデルにせよ、対象はこれまでのようにユーザー(あるいは顧客、読者)だけではないところが一つのポイントである。

そもそもインターネットという強力なインフラで構築されている垂直統合モデルでは、ユーザーだけを囲い込んでも市場が活性化していかないという共通点がある。これは任天堂のWiiが何故シェアを落とし始めているのかということにもつながるのだが、ユーザーと同じくらい囲い込む必要があるのがサードパーティと呼ばれる開発者であり、電子出版の場合は「出版社」である。またこれらのサードパーティにもざっくりと二つの区分がある。それは「既存の出版社」と個人を含む(我々のような)新興の「インディーズ」出版社である。すでに電子化が進んでしまい市場が10年前とでは全く様変わりしてしまった音楽業界を考えればすぐにお分かり頂けると思う。アップルがiPhoneで大成功を収めた理由はここでのサードパーティ、それもインディーズの開発者へのアピールに成功したからであり、数少ない大成功タイトルの例を夢見る多くの開発者たちをいわば「ゴールドラッシュ」のような状況に導くことに成功したのだ。実際にはあまりにも数が多くなってしまったAppStore上でヒット作品を出すのは並大抵のことではなく、アプリ開発者の多くは儲からない。それでもダウンロードされる度に売れていく(印税が開発者に70%、残りはアップル)のは個人業者や中小企業にとっては非常に大きな助けとなる。フェイスブックやMixi(ミクシィ)といったSNS上でもアプリが取り沙汰されているが、これらの多くは有料課金ではないので、ユーザーは無料で遊べるものという前提条件をすでに植え付けられてしまっており、後に採算化に困る業者が後を絶たないであろう。

電子版コンテンツを無料で閲覧させるという「フリーミアム」手法を取り入れたことで話題になったクリス・アンダーソンが書いた「FREE」という本で述べられたように、今のインターネット上では多くの情報は無料で提供されており、おそらく95%以上のユーザーはウェブ上での情報に対してびた一文支払わないのである。これらを顧客と考えるのか、それともお金を支払ってくれる残りの5%以下にターゲットを絞るべきか、というのがオンラインマーケティング上では非常に重要なテーマであり、前者を狙うならば例えばウェブサイトであればかなり多くのPV(ページビュー)を稼がなければならなくなり、ヤフーやMSNのような大手サイトしか採算が取れなくなる。不況で広告業界も苦しんでいるので、ここでの数字はどんどん増えていくことになり、結果として大手はPVを集めるために例えば半ばツリ(吊りではない)広告のような見出しでユーザーの関心を引くようになり、結果として優良な情報を提供しているが、訪問するビジターの数が圧倒的に少ない(当たり前だが)ニュースサイトやブログには広告がかなりつきにくい。

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立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。在米歴20年以上。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(ともにDiscover21)など計六冊を上梓。

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