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電子書籍協会が方針を策定する段階で最初から「紙と電子の共存」を謳ったという見出しを新聞で見かけた時、そこに筆者は根強く残る旧世代からの「壁」を見た思いがした。すでにこの協会についてはいわゆる「中抜き」、つまり著作者が直接読者に作品を販売するモデルを阻止する魂胆がみえみえであるとして、設立当初からネット上ではキンドルならぬ「ブンドル」というニックネームがついているほどだというのに、当の本人たちは既得権益を守るのに必死なご様子。これでは間違いなくうまくいかない。

筆者はオンラインゲームとキンドルの電子出版を当事者として間近に観察しながら一つの確信を得ていることがあるのだが、それは価格を決めるのはあくまでも市場であるということだ。これは当たり前のようで、これまでとは勝手が異なる切実な問題である。どういうことかというと、これまでの書籍業界やゲーム業界のソフト(ゲームソフトや書籍の総称)の値段をベンダー(ゲームメーカーや出版社)が決めてきたのが慣例だからだ。カルテルという価格競争を抑止するルールが商法的に成立しているにも関わらず、実際には多くの場合において値段は競合間で暗黙のルールによって同じような価格で設定されている。筆者は幼少の頃からマンガ好きだったのだが、当時の単行本の値段はそれが小学館から出ていようが、講談社だろうが、はたまた集英社だろうが360円くらいだった、そしてそれが20円ずつくらいの単位で上がっていったように覚えている。週間少年ジャンプやマガジン、あるいはサンデーといった代表的なマンガ雑誌ももちろんその例外ではなく180円から200円といった値段で横並びだった。ゲームの価格もある程度は統一されていたのだが、これを最も厳しく設定していたのが任天堂である。

以前筆者は、世界中で利用されている英語能力や学生の能力を測る試験を数多く運営している米国の某有名教育研究団体と提携して、携帯ゲーム端末の任天堂DS向けの英語学習ゲームの開発プロジェクトを手がけていた時期がある。結果的には諸般の事情でうまく立ち上がらなかったのだが、その際に学んだことで意義深かったのは任天堂というゲーム業界の巨人がもつ絶大な力だった。ゲームの製作会社は白ロムという元のメモリーを任天堂から購入する仕組みになっているため、いわゆる下代はそのメモリの容量により決定されることになる。このため任天堂DS向けのゲームソフトは例えば(容量にもよるが)1000円以下で市場に出回ることはないのだ。任天堂は世界を席巻したファミリーコンピュータでこのシステムを導入して以来変わらず同じ方針をメーカーに要求してきた。この結果、ゲームメーカーからの収益は莫大なものとなり任天堂は今や押しも押されぬ世界の大企業となった。

現時点で業界で儲かっているゲーム会社と言えば任天堂がダントツで、後はカプコンとスクエニ、そして新興のレベルファイブくらいだろう。これらはいずれもイノベーションと積極的な海外戦略を盾にうまく事業を成功させてきた会社である。しかし、その任天堂も今や苦境に追いやられている。というのもアップルのAppStoreで販売されている膨大なソフトの販売価格の下限は0ドル、つまり無料であり、多くのゲームソフトは10ドル以下で販売されているからだ。いくらゲームメーカー(いわゆるパブリッシャー)がその値段に合わせたゲームを販売したくても任天堂がこれまでのルールを頑なに守り続ける限り、このような安価でゲームを販売することは不可能である。これにより、多くの独立系デベロッパーや中小ソフトハウスがアップルの画期的なプラットフォーム大挙してきたわけである。結果として任天堂は以前はアップルをまったくライバルとは見なしていなかったのだが、最近では強敵とみなすコメントを経営陣がするようになってきたほどだ。しかし、気づいた時には遅かったのである。任天堂はWiiでも別の理由でサードパーティの囲い込みに失敗しており、これが結果的には市場の縮小をもたらしてしまっているのだが、これについては「垂直統合型」ビジネスモデルの項目で詳述することとする。

このように、インターネットという定額あるいは非常に安価なインフラを通して市場に流通している電子コンテンツの価格設定は一から再構築されるのであり、これまでのルールは通じない。コンテンツの「次元」が変わっているのだから当然のことなのだが、これが既得権益を抱える企業の経営者を悩ませる一つの「壁」である。(続く)

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Hatena Bookmark - 第1章 価格と流通 – 電子ブック開国論 (8)
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