第2章 キンドルの衝撃とバカの壁 – 電子ブック開国論 (16)

アマゾンとアップル 二隻の黒船
この原稿を執筆している2010年4月3日は世界に先駆けて全米でAppleのiPad(アイパッド)が発売された記念すべき日である。筆者も早速地元のアップルストアに行って、先行予約初日に予約したiPadを受け取りにいってきた。2台購入したのだが、1台は日本のクライアントのためで、彼らはiPad用のアクセサリーとしてケースやバッグをデザインする。もう1台はもちろん電子出版用のサンプルとしてである。購入直後にブログにて購入レビューのエントリーを複数アップしたのだが、予想通り反響は大きかった。(この時YouTubeにアップロードした2本のビデオの表示回数合計は本日時点で6400回超となっている) 話はそれるが、このようにニュースを誰もが簡単に配信できるようになったのもインターネットの恩恵であり、ブログというすばらしいマイクロメディアの情報発信プラットフォームの仕組みを誰かが作り出してくれたからである。

さて、日米を問わず電子ブックリーダーの評論家やユーザーの間で「KindleかiPadか?」という議論があちこちでされているのを読者の多くも見かけられていることと思う。しかし、この単純な比較にはいくつかの注意すべき側面がある。一つはKindleとiPadが全く異なる性質のデバイスであるということ、そして、もう一つはこれらを提供しているAmazonとAppleが実は電子出版市場を広げていく共存関係にあるということだ。筆者は社会人としてのキャリアの前半を製造業で過ごした。周辺機器メーカーやアクセサリーのそれも大手メーカーで企画・開発から購買業務、新規ベンダーの開拓などの上流、あるいは後方支援業務から海外事業部の立ち上げを行い、米国子会社の社長として営業の陣頭指揮を執ったり、あるいは店舗にて新品や中古品の販売員や買取などを行う店頭業務、あるいは最下流の職務など製造業の一通りの流れをほぼ全て網羅したといってもいい。このため、後にまったく別のキャリアを構築しようとしてコンサルティングの道を志したのだが、基本的にはこのような製造業でのキャリアがビジネスを見つめる際の視点のコアの一つであることは疑う余地も無い。その観点からもKindleとiPadはきれいに棲み分けができていることが理解できるし、アップルとアマゾンが「競合と共存」戦略をとっていることが見て取れるのだ。

出版界においては、この二社はまったくの新興勢力であり、タッグを組んで既存勢力に向かい合うことがこの電子出版というまったく新しい市場を拡大させるために必要であることを彼ら自身が一番よく認識できているはずだ。この点で特に他のハードメーカーがこの二大競合に立ち向かおうとした際には、この二つのとんでもなく画期的なデバイスの特性と開発の背景、彼らの電子出版に対するビジョンを正しく理解しておくことは必須条件である。では大きく分けてこの二つのデバイスがどう違うのかを簡単に説明してみよう。 (続く)

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立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。在米歴20年以上。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(ともにDiscover21)など計六冊を上梓。

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