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実際、最初はもの珍しさも手伝って、柳田が元従業員たちと工夫して作ったコンテンツはそこそこ売れたが、従業員を支えたり、柳田自身の家計を支えたり、というレベルからは程遠かった。これには柳田自身の知名度も勿論影響していた。「何とかして名前を売らないと」、そう思った柳田はブロガーとしての活動を精力的に行うようになった。ブロガーというのは文字通りブログを書く人のことだ。ブログには有料のものと無料のものがある。有料にして儲けたいという気もあったが、全く無名の柳田のブログがお金を取れる訳もなく、無料を選択せざるを得なかった。大体世に溢れるブログの大半は無料である。柳田は必死に業界の情報を毎日書き綴った。結果的には、アメリカで先に発売される電子ブック端末を日本に先駆けてレビューをする手法が功を奏し、比較的短期間で柳田のブログは知名度を上げていった。

「今日は何時に出かけるの?」ふいに後ろから声が聞こえてきた。恵子だった。最近家で仕事をする時間が増えてきた夫のことを好ましく思っていない訳ではなかったが、彼女も家で一人いる時間を必要としているらしかった。夫が四六時中自分の生活を見ているというのは、何となく落ちつかないのだろう。

「あと三十分ほどしたら、これ書きあがるから、そしたら行くから」、そう夫が言うと妻は納得したらしく、台所に向かった。昼食の準備にでもかかるのだろう。最近妻の様子がおかしいことに夫は気づいていた。恐らく不安が限界近くに達しているのだろう。

「さてと、さっさとこれを書いちゃわないとな」柳田は書きかけのブログのエントリーを仕上げ始めた。
タイトルは「ソーシャルメディアと収益性について」。まさに柳田自身が直面している話題だった。中学生時代からワープロを活用していた柳田の指はとても器用に活字を叩きあげていた。妻からはこの音がうるさいという苦情を受けることが度々あったが、そればかりはどうしようもなかった。しばらくしてなかなかの長さのエントリーを明確な結論なしに仕上げた柳田はさっさと身支度をして、ノートパソコンを携帯して玄関をでた。今日は月曜日、また愛する家族のために身一つで稼ぐ孤独な自営業者の一週間が始まろうとしていた。

ウィキペディアンの憂鬱 1 2 3

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Hatena Bookmark - 序章 ソーシャルメディアとジャーナリズム ~ ウィキペディアンの憂鬱 2
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