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手元にあるJETRO の資料によると、中国の携帯人口はすでに7 億人に達しているという。それでも人口の半分強なのだから、やはり13億という世界最高の人口を有している中国の力と市場の潜在価値はとんでもなく大きい。日本はこの近くて遠く、そして歴史上最も深い関わりがあるといっていい中国市場と電子出版市場でどう関わっていくべきなのだろうか。

実は昨年の冬に筆者がアメリカに来てからずっとお世話になっているリチャード藤田氏という方の依頼で中国の3G通信に関する事業でとあるプロジェクトを託された。それから4ヶ月ほどは電子出版でアマゾンとのやり取りに戸惑っている間に実務をスタッフにまかせて筆者自身はその案件にどっぷりと漬かっていた。そのプロジェクトの概要は機密上あまり深く話せないが、その進展の中で中国の通信関係でかなり高い地位にいる要人と接触することもでき、中国という市場がどれだけ電子出版市場に興味をもっているかという片鱗も伺い知ることができた。

とは言え筆者も製造業に従事していた時から中国との関わりは深く、多いときには年に七度ほど出張して製造管理や新ベンダーの開拓をしていたころがある。当時からダイナミックで人間臭い中国市場には圧倒されっぱなしだったが、今の中国はますますパワフルになってきているということは中国が今や自動車、携帯、電子機器などの多くの市場において世界一であることからも簡単に推し量ることができる。その中国はが2013年には電子出版においても世界一の市場になるという観測が発表されたことは以前ブログにも取り上げた。

中国には世界一の通信キャリアで香港証券市場で堂々の時価総額一位に輝く中国移動(ChinaMobile)を筆頭に三つの通信キャリア会社が存在する。現状はそれぞれが異なる通信規格を推進しているのだが、中国の目論見はドイツのシーメンス社と共同開発してきた独自企画であるTD-SCDMAという規格である。この規格は中国が総力を上げて推進してきている規格であり、すでに何兆円という国家予算が投じられてきている。このTDSCDMAを統括しているのがTD-SCDMA産業連盟という団体であり、中国移動や中興(ZTE、ハード最大手の会社で中国移動の端末の70%を供給していると言われている)や大唐通信(産業連盟のトップである楊書記長はこの大唐通信あがりのエンジニアであり、もともとシーメンスと共同でTD-SCDMA規格をつくりあげたのもこの会社である)、連想集団(Lenovo、先日IBMからThinkPadというノートPCの製品ブランドを買収した)といった関連企業大手は皆この組織に参画している。

*現在AppleのiPhoneは中国移動ではなく業界三位のチャイナテレコムが供給しているのだが、最近中国政府(というか産業連盟のことだと思う)がApple社に対してiPhoneをTD規格に対応させるように要請しているという噂が話題になった。

すでに中国では電子出版の波もきているが、肝心のアマゾンが(台湾を除いた)中国市場にKindle2(国際版)を供給していないし、競合のAppleも中国市場では苦戦している。何より中国政府は自国の企業の利権を奪いかねない垂直統合型のビジネスモデルに対しては寛容ではない。これは(もはや潜在的ではなく実際的に)世界一の市場を有して者としてはある意味当然とも言える。検索の世界最大手のグーグルでさえ、実質的に中国市場からは撤退せざるを得なかったが、そもそもシェアで中国検索最大手の百度にはまったく及んでいなかったので、一連の騒動の背景には中国対米国の政治的背景が垣間見える。

しかし、これはこれまで中国とモノづくりで長い間関係を構築してきた実績があり、何より同じ儒教や仏教といった文化的な背景と何より漢字という共有財産を有する日本にとっては本来プラスな話のはずである。中国は経済的に発展してきたとは言え、上海や北京などの一部の都心を除けばまだまだ文化水準は全国的に低く、ハードウェアのコモディティ化に必要な成熟したユーザーエクスペリエンスをもたない。つまりこれは、中国が単体で世界水準のモノづくりをするにはまだしばらく時間がかかるということで、例えば携帯電話について考えると新製品の仕様を決定する際に重要な機能やデザインといった面において、日本や韓国、あるいは米国のようにすでにコモデティ化するほど使い込んでいる消費者を大量に抱えている市場からの意見は大変貴重である。(しかし、中国は急速に躍進してきており、その力を過小評価することは危険である。現にアメリカにおいては昨年30社以上のNASDAQ上場会社が中国資本によって買収され、2010年はこれが40社の規模に膨らむとされている。日本においては上場会社の買収よりも先端技術や不動産に注目がいっているようだが、米国のサブプライム問題に単を発したこの世界恐慌を背景に世界一の外貨準備高を保有する中国の資本、いわゆるチャイナマネーは日本にも大量に流入してきているのだ)

シャープや東芝、日立にソニー、松下といった日本の大手家電メーカーで中国に生産拠点をもたない会社はないだろう。それくらい日本のモノづくりは中国との密接な関係の上で成り立ってきている。そして中国からしても、一億人以上の人口を対象に独自のケータイ文化という成熟したユーザーエクスペリエンスをもち、自分たちの利権を脅かす「垂直統合型」のビジネスモデルという勝ちパターンをもっていない日本はどちらかというと与し易いのだ。しかし今回この通信業界の中に入り込んで仕事をした感じでは、日本はまったくこれらの中国の市場における主要な企業や政府筋の重要な人物とパートナーシップを組めていないようだ。

そしてこれとは反対に積極的に動いているのが、今や世界一の家電メーカーとなったサムスン電子である。(ちなみにサムスン電子は今年日本市場において3Gの次の規格であるLTE規格の承認を受けた最初の端末を作ったメーカーでもある) もちろん地の利ということでは韓国は歴史を通じて常に中国との関係を考えざるを得ない立場におかれていたので、中国の驚異と潜在価値を痛いほど認識しているに違いないが、それでも彼らは漢字をもはや日常的には使用しておらず、書体は違うとは言えど、同じ漢字文化を共有していて、同等かそれ以上の水準をもった携帯文化を誇る日本が韓国の後塵を拝しているというのは残念なことである。

とは言え、中国の電子出版市場はまだまだ始まったばかりである。ユーザーエクスペリエンスも発展途上であり、現在最も多く読まれている電子書籍コンテンツは新聞だという。また英語の次に日本語を学ぶ人口が多いなど、国民的に親日感情が強いことで知られ、大陸で使われている簡体字よりは日本語の漢字に近い繁体字を使い続けている台湾の存在も今後の電子書籍市場を考える上で重要である。

日本が世界に進出する秘策のところでも話したが、日本語のコンテンツを中国語化したもの、特に中国語圏の人々に日本語を教えるためのコンテンツなどはこれからも強い需要があるに違いない。昨今日本を訪れる観光客の中で最も比率が高いのは中国系の人々であるということからも、極東アジアで唯一先進国の仲間入りをして、戦後の焼け野原からこれだけ物資に恵まれて成熟した文化を育んだ日本、そしてその首都東京や古都である京都や奈良のブランドというのは当分の間高いステータスをキープできるはずだ。中国に対する電子出版を考える点では、これまでのように日本に到着した観光客や留学生をターゲットとするのではなく、電子ブックのコンテンツを利用するなどして日本の文化や製品、ある
いは観光地を売り込んだりするなどということをする戦略に意義があり、また何かと物議を醸す日中関係において相互理解を深めることにもつながる、双方向の言語学習はまたとないツールに成りうるという視点を忘れないで頂きたい。

電子ブック開国論 48 49 50 へ

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