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(本稿は2010年4月に書かれています)

-呉越同舟か船頭多くして、か?電子書籍協会はどこへ行く

電子出版が昨年末からにわかに日本でも脚光を浴びだしたおかげで、今年は毎月のように日本に出張することとなったのだが、年初に行ったときのこと。大手メディアは国内の大手出版社21社が集まって、電子書籍協会なるものを設立した。私は実は機内の新聞で電子書籍協会が発足することを知ったのだが、やはり一般的なリアクションだとは思うが、困惑を隠しきれなかった。後に国内で大騒ぎになったニュースなので、詳しく説明することはしないが、当時発足の目的は次のようなものだと告知された。

1. 電子書籍市場の拡大
2. 米国の電子書籍大手アマゾンの読書端末「キンドル」の日本語版発売が想定される中、主要出版社が書籍電子化に団結して対応すること

また同協会は、著者や販売サイトとの契約のモデル作りをしたり、電子書籍の端末メーカーと著者、出版各社などの交渉窓口となることを意図しているとも報道された。挙句の果てにはデジタル化に伴う作品2次利用に関する法整備も求めていく、というコメントまであった。

後にこの一般社団法人「日本電子書籍出版社協会」(正式名称)にはもう10 社が加わり、計31社となった。しかしこの一見呉越同舟に見える乗合船も、これだけ既存の大手から中小規模の出版社までをすべて囲い込んでしまっては意思決定がどれだけのスピードでなされるかということについて、まったく検討もつかない。対するアマゾンはと言えば2010年1月だけでも矢継ぎ早にIRを告知(20の告知がなされたが、そのほとんどがKindle関連のものだった)して、テンポの速い業界に慣れている我々でさえ目を見張るようなスピードで革新を進めている。しかもアマゾンが見ているのは世界だ。しかもAmazonのジェフ・ベゾスCEOはアマゾンの創業者である。もう一つの雄Appleの現CEOであるスティーブ・ジョブズも創業者だし、グーグルもそうだ。(マイクロソフトだけは創業者のビル・ゲイツがすでにリタイアしてしまっている)今年の日本のフォー
ブス長者番付で堂々の一位に輝いたユニクロの柳井社長も創業者だ。私が思うに、このような大不況ではゼロベースに思考を戻して果敢に勝負に打って出られる経営者が強く、この点ではやはりゼロから会社を大きくしてきた創業者ほど頼りになるものはないと思う。

一方「電書協」(先程の「日本電子書籍出版社協会」の略称)のほうはと言えば、参加者の中にほとんど創業者がいない。また出版業界では大手と言えど、恐ろしいくらいにアナログの人たちが多い。(もちろんそれ自体を否定するわけではない、これまで必要ではなかったのだからそれはそれで構わない)つまり現状を正確に分析することのできる人物が経営者になっている可能性はかなり低いという訳だ。そして、この決裁権をもっている経営者がなかなかこの「電書協」のような団体の会合に直接足を運ぶことをしようとしないのであり、代理を送り込むことになる。そうなれば、例えいいディスカッションや提案が会議中に成されたとしても、結局は色が薄まってしまう。これでは到底アマゾンの猛攻に
追いつけるわけがない。追い越すなんてもってのほかだと思う。迫り来る黒船の脅威に対して、呉越同舟と言えば聞こえはいいが、「船頭多くして船山に登る」という言葉がぴったりくるような展開になっていきそうな気がして仕方がない。今日の日本の出版業界、特に講談社・集英社・小学館の大手はその収益の大半をマンガに頼っており、実際に日本の出版業界におけるマンガの売上と利益性というものはまさしく業界の屋台骨となっているという指摘がなされている。

佐藤秀峰氏の言動が出版界に及ぼした影響(ブログ1-18-10をもとに加筆修正)医療業界にメスを入れる視点から現場の実情が描かれていることで話題の「ブラックジャックによろしく」や「海猿」などの作家で、昨今出版社(編集者?)との軋轢からマンガのデジタル直販を始めることになった佐藤秀峰氏が自身のブログでこの件について言及している内容も話題になっている。いわく「漫画家が出版社を養ういわれはない」。本
書でも幾度か言及してきた「依存心」がここでも問題になっている。筆者が思うにこの問題のポイントはパワーバランスである。門外漢の目から見ると現状の出版業界ではこのパワーバランスが著しく出版社側に偏っているように見える。(他によく似た例では歯医者と歯科技工士の関係があるそうで、これも日本ではかなり技工士側に厳しい待遇になっているが、アメリカではほぼ対等だそうな)戦後の日本の経済成長を支えてきたのはモノづくりであったが、自動車や家電と言った物品以外にも日本は「コンテンツ」をつくってきたのであり、この意味で工員的な体制で仕事を続けてきたのはある意味仕方がないかも知れない。しかし漫画家や作家がブルーカラーかというと、必ずしもそうあるべきではないし、分業や報酬といった観点でも、もっと違ったシステムもいくらでも考え付くはずである。

筆者は電子出版の力がとてつもなく大きなものであり、結果的にはそれが世界中の多くの人々のためになるということを信じてやまない。特に今経済力を失い、このままいくと世界3位ばかりか、7位(ドイツ、フランス、イギリス、イタリアに抜かれれば)、あるいはもっと下(その下の諸国は接戦である。PerCapitaだと中国とはまだまだ開きがあるが、こちらでは日本は20位以下である)の地位に甘んじなければならなくなるかも知れないという危惧間の中、日本はこれからアジア圏に対して文化的リーダーという地位を築き、他のアジア諸国が先進国の仲間入りをするのを先導する立場をキープすべきだというのが私の持論であり、これは経済成長を果たした大国がいかに「持続可能な発展」を全体で標榜しつつ、発展途上国の経済成長を導くかという環境政策学の視点に通じるものもある。

一方大手出版社の気持ちもよく分かる。この不況と、躍進しているチャイナパワーで揺れるグローバル経済の中、誰しもが先行き不安を感じている。(続く)

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Hatena Bookmark - 第6章 いつまでも続く開国談義 出版関係者に物申す – 電子ブック開国論 (53)
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