第6章 ウェブの「収斂化現象」とツイッター – 電子ブック開国論 (59)

少し話がそれるが、インターネット広告市場が大きくなっているといっても、大手依存の傾向は強くソーシャルメディアの足かせとなっているのは俗に言うPV神話(PV:ページビューが多いところに広告が周チュするということで過当競争を産み、結果大手サイトに広告が集中するために何とかPVを増やそうとしてあの手この手でアクセスを増やそうとする、という悪循環を生む)と揶揄される現象により、ほとんどは大手に集中している。さらにそれさえも低下してきていることはネットの広告市場が伸びていると言われる割には売上規模が伸び悩んでいる大手インターネット広告代理店の業績にも現れている。

もっともウェブの世界では今後「収斂」がトレンドになっていくと分析している。膨大に増えてしまったサイバースペース上の情報は、一部の人々には便利を通り越して「不便」になりつつあるからだ。人間は自由よりも選択肢を与えられたほうが行動しやすいもので、筆者はよく「多選択は無選択」とう言葉でオンラインマーケティングの世界を形容することがある。よく無限にカスタマイズや選択ができたり、自由に行動できたりすることがあたかも優れた機能であるかのように見せるPR手法を用いて宣伝しているインターネット関連のサービスがあるが、実はこれらは逆にユーザーを困らせることが多い。あまりに何でもできてしまうと逆にユーザーは困惑し、何をしようかと思い巡らせるうちに結局何もできず時間だけが無駄に費やされて、そのうちそのサイバースペースから遠のいていくのだ。

一時日本ではやった「セカンドライフ」がその典型的な例である。人間の行動にはある程度選択肢が限られているほうが、先に進みやすいということを示すのに分かりやすい例を挙げるとすれば、アメリカのショッピングモールのデザインがそれだ。アメリカのモールはお客さんが周り易いようにレイアウトされているため、実際に中に入ったはいいがどこを見ていいかよく分からないというモールはほとんどない。一般的な屋内型のモールは中央に大きな吹き抜けの通路が設けられており、買い物客は階を上がったり下がったりしながら、右回りか左回りかで各店舗の前を通過しながら目当ての店舗を探して中に入るわけである。これが屋外型のモールになると中央には大きな駐車場が据えられていることが多い。

構造的には電子出版やソーシャルメディアなどとも深く関わってくる話なので、この「情報の収斂現象」に関して少し補足しておくが、1998年に当時スタンフォード大学の学生であったセルゲイ・ブリンとラリー・ペイジがサン・マイクロシステムズの創業者の一人であるドイツ人エンジニアのアンディ・ベクトルシャイムから、10万ドルの出資を受けてグーグルという世界で最初の本格的なネット検索エンジンをスタートさせてからはや20年。今やグーグルの膨大なクラウドサーバーに検索される情報量は天文学的という以外に形容することのないほどのデータ量になってしまっている。筆者が住んでいるロサンゼルスと同じ西海岸上にあるシリコンバレーはこのインターネットテクノロジーの普及を受けて繁栄を遂げたが、その影には無数の栄枯盛衰の物語がある。

ドットコムバブルという言葉があるほどにウェブの世界は一時は華やかなVCからの資金調達とIPOというエグジット戦略などに象徴されるように、もてはやされてきたものの、その実あまりに便利になりすぎてしまった「ネット」上では情報の価値はタダ同然となってしまい、ロングテールと呼ばれる多くのユーザーは情報に対価を支払うという概念すらもたずネットで検索できる情報はすべて無料で提供されるべきであるとでも思っているかのようだ。しかし、ネットと世界中の有志の「集合知」を代表するWikipediaのような画期的なサービスはともかく、通常ネットに散見している情報というのはほとんどが何らかの営利団体が関わって提供されており、もちろんそこには何らかの形での収益が発生する必要があるわけだ。ここに多くのウェブビジネスを苦しめる大きなジレンマがあるのだが、ユーザーがこれまで通り情報というものに対価を支払わないという選択肢を一般的なものとして捉える限りは大きな収益源というのは広告しかない。このネット広告という存在がまた大きな市場を生んでいるので、それがさらに様々なビジネスモデルや業者を惹きつけてしまうわけである。

SEO(Search EngineOptimization:検索エンジンの最適化)サービスなどがその最たる例だが、業者がパワフルになればなるほど、グーグルはそれを適性排除しようと検索アルゴリズムを変更してくる、という感じに悪循環が続く。まるで筆者が大学の環境学の授業の一つで学んだ「スーパーバグ」理論さながらである。(スーパーバグ理論というのは、農場などで撒布される害虫対策の農薬が一部の害虫に耐性を付与してしまい、その後その生き残った害虫を駆除するためにもっと強い農薬を開発する、そしてまたそれに対しても生き残る害虫がより強力な耐性を身につけてしまう、という感じで悪循環が続くことをいう)この結果、ユーザーは今や検索エンジンで「自分が最も探している回答」にそうそう辿り着けなくなってしまった。(続く)

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立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。在米歴20年以上。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(ともにDiscover21)など計六冊を上梓。

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