Sponsors

電子出版の可能性を信じて東京の街を徘徊する一人の老人がいた。いつの頃からか、うぃる爺と呼ばれるようになっていたが本名は誰も知らない。薄汚い服装に身をやつしながらも、その眼光は鋭かった。時には歩きながら、時には立ち止まって、あるいは床に座りながら通りゆくものをじっと観察していた。標的を探しているのだ。とにかく老人は話し始めるまでは落ち着きがなかった。噂によるとADHDとか、多動症とか呼ばれる障害を患っているらしいとのことだった。

今日も目の前を歩くものを掴まえては質問を投げかけるのであった。目の前を少し元気のなさそうな、ロマンスグレーの男が通りがかった。スーツを着ているがネクタイはしていない。手にはブリーフケース。

「仕事は何しとる?」
男は言った 「え? その。。出版社で働いています」

うぃる爺の目が輝いた
「そうか、ならちょっと訊きたいんやが、電子出版いうのは知っとるやろ?どう思う?」

男は根拠はないが間髪入れずに胸をはって言った 「日本では流行らないと思います」
間髪入れずにうぃる爺も尋ねる
「なんでや?」 うぃる爺の目は輝いていた、臨戦態勢だ。いつの間にか周りにはギャラリーができはじめている。

男は胸をはっていった 「ソニーが昔やったり、いろんなところがやりましたが、結局はどこもうまくいきませんでした」
白髪の老人は続けて尋ねる 「昔うまくいかんかったら、いつまでたってもうまくいかんのか?昔とはインターネットの環境が違うのとちゃうのか?」

男は少し詰まった 「いや、そういうわけじゃないですが、日本人にはやはり紙かと思いまして」
うぃる爺は男の自信が揺らぐのを見逃さなかった 「誰も紙が無くなるとは言うとらんやろう」

男は何かの雑誌で読んだことを思い出して言った
「日本では電子出版といえば携帯とマンガです。だからいちいち他の端末を買う人は少ないはずです。日本の携帯は世界一ですから、雑誌でもどこでもそう言っています」
うぃる爺は少しため息をつきながら話した。
「確かに今の日本では携帯とマンガが電子出版市場の大半を占めてると言われとるな。せやけどそれはそもそも、たまたま携帯電話とマンガが一般的に普及してるからかも知れんやろ。だいたい電子出版と聞いたら、条件反射みたいにキンドルやアイパッドやと端末の話をするやつの意見はたいがい間違うとる。意見、いうか自分の希望を言うとるみたいに聞こえることが多いんやが。ところでお前さんはネットをよう使うんか?」

男はぎくりとした。普段はメールを使うかニュースを見るか、アダルトサイトを見るくらいしかネットに触れることはない。ウェブを取り巻くカタカナの言葉もよく分からないし、巷で流行し始めているソーシャルメディアというものに関してはまったく何の意味かも分かっていなかったのだ。
「いや、私はアナログ人間なので。エディターですから週末は子供になることにしてます」
「わけのわからんことを言うな!そんな時代はとうに終わっとる。今はメール言うたら電子メールのことを言う時代やぞ。わしはな、何も電子出版の専門家をきどるつもりはない、しかし、世の中がこれだけ変わってきとる時に先を読むのはそんなに簡単なことやない、ということは分かっとるつもりや。しかし、お前はそれにすら気づいとらん。自分が出版社にいるからいうて、電子出版も自分のテリトリーや、そう思とるやろ」

男には返す言葉がなかった。
さらにうぃる爺の口撃は続く。
「出版業界には何年おるんや?長いんか?」

男は俯き加減で答えた 「大学出てからずっと、もうすぐ30年になります」 男は50代半ばだった。
それを聞いて、うぃる爺は急に優しい口調で話し始めた。
「そうか、長いこと出版業界の屋台骨をしょってきたんやな。 時代の流れが変わるのを見るのはさぞかし辛いやろう」

男は半分泣きべそになって言った 「そうなんです。。。音楽や映画が電子化した時には興味深々であれこれ騒ぎ立てたんですが、いざ自分の仕事に影響がでてくると。。。息子がもうすぐ大学に入るので今辞める訳にはいかないのです」

「リストラの空気が漂うてる、そうやな?今年はいっぱい出版社が潰れるらしい。雑誌もあちこち廃刊になっとるやろ」 うぃる爺は頷きながら言った。
「今からでも遅うない、電子出版の現状についてもう少し偏見をとっぱらって勉強してみたらどうや、おまえさん編集者やろ、違うか?」

もう顔を涙でぐしょぐしょにしている高岡編集長は何度も頷いていた。最近ヒット作がでておらず、同僚が次々に解雇されたり部署が閉鎖されたりしているので気が気ではなかったのだ。長年一緒にやってきた山田も、ついに5月で依願退職に踏み切った。これが一番こたえた。

うぃる爺はどこから取り出したのか、一冊の本を男に手渡しながらこう言った 「この本にはその昔電子出版の可能性を信じて、失敗を続けて周りから罵倒されながらも、日本の作家や編集者のためにメッセージを叫び続けた男の魂がこもっとる。最初はようわからんかも知れんが、何度も何度も繰り返して読んでみぃ。最初わからんことも、そのうちようわかるようになってくるはずや。自分が分からんからいうて、やみくもに否定するのは「バカの壁」にぶつかっとるんやからな。聞いたことあるやろ?」

男はその本を手にとった。そこには「電子ブック開国論」という署名があった。中を開けると手書きで「活字と日本をこよなく愛する者として」という銘とともによくわからない英字の書体があった。日付の横には「意力」と書いてあった。
「ありがとうございます。読んでみます!」 とお礼を言って顔を上げた時には既に老人の姿はなかった。。。

(注: この物語は完全なフィクションです。実在の人物でモデルに相当する人がいる、場合もあるかも知れませんが内容とは一切関係がありません)

第二話へ続く



<P R>
日本初!電子作家と編集者をつなぐ電子出版SNS “EBook2.0“(無料会員枠残り名!)
電子出版とオンラインマーケティングの最新情報をお伝えするロサンゼルス発 「うぃるの意力ブログ」取材や執筆、コンサルティングに関するお問い合わせはこちら
北米での電子出版体験裏話や日本起死回生の提案などを綴った話題の処女作「電子ブック開国論」、今夏出版に先駆けてフリーミアム電子版を近日配信予定!


Share on Facebook
[`tweetmeme` not found]
Post to Google Buzz
Bookmark this on Hatena Bookmark
Hatena Bookmark - うぃる爺、電子出版を世に問ふ (うぃる爺の弁明 初回) 
Share on LinkedIn
Bookmark this on Yahoo Bookmark
Bookmark this on Livedoor Clip
Share on reddit
Share on FriendFeed
Newsing it!