CES2010 レポート2 ~電子出版市場の趨勢を占う~

昨日はその後も順調に取材および商談を続けることができて5時ごろ会場を後にした。今回はすぐ近くの公式パーキングにも車が止められるのだが、そこの駐車場が大きすぎて車を探せなくなって20分ほどうろちょろとする羽目に。。。ちなみに今朝になってみると、昨日のブログへのアクセスがものすごいことになっていた。トラフィックを分析すると、どうやらヤフーとかニューシングでも取り上げられたようなのだが、逆にこちらからではどれがトラフィックの元になったのか分からなかった。まぁ沢山の方にこのブログを読んでいただけることはライフワークを執筆とするブロガー冥利に尽きるというものなので、頑張ってレポートを続けたい。

さて、SAMSUNGとSONYの次に私が期待していたのはマーベル(MARVELL)という会社の電子ブックリーダーだった。この会社は中国企業だが、中国独自の3G規格であるTD-SCDMA産業連盟のパートナー企業でもある。ちなみにアメリカンアニメのマーベルとは全く別の会社なのだが、何故かあちらのマーベルの大御所「神様」Stan Leeが基調講演に来ていたみたいなので余計にややこしかったりして。
(ちなみにTD-SCDMA産業連盟には中国の上場企業かそれに類する規模の企業でなければ参加できない。産業連盟は政府機関であり、中国が世界を牛耳ろうとしているTD規格の舵を取っている。(ちなみに現在中国の携帯人口は世界ダントツ一位の7億人で毎月700~800万人の規模で増えているという。そのシェアの70%をもつのは中国移動(China Mobile)というキャリアで、ちなみにここの香港市場での時価総額はトヨタの1.5倍にものぼり、HSBC(香港上海銀行)よりも大きいフォーブスの世界トップ企業にも名を連ねる大企業である) この中国3G案件は、私が先日設立したBMWT Internationalという会社の本業に直結する話で、それに関する商談も今回の訪問目的の一つである。)
マーベル社ブース概観

さて、マーベル社ではご覧の通り実際に触れる実機の展示は少なかったが、Smartbooksという名目でタブレット機を展示しており、その中に私が探している電子ブックリーダーもあった。基盤も展示してたのは面白かったが、想像していたとおり電子ブックリーダーの基盤はネットブックよりもはるかに簡単にできているようだ。またTDパートナーなので3Gの搭載には問題ないようだ。

マーベルのリーダー「QUE」
マーベルのリーダー「QUE」

Marvell Smartbook2

Marvell Smartbooks

Smartbooksの基盤
その次に私が向かったのはASUSTEKのブース。ここでは去年噂になった超激安の2画面型電子ブックリーダーが展示されてるはず、と思ったが展示されていなかった。そこで、担当を紹介してもらうことになった。この辺り普通のプレスとは違い実際に商談につながる案件をもっているビジネスマンの役得でもある。(これはSONYブースでの取材に対しても活かされた)
ASUS Computer International (Fremont, CA)のMichael Wang氏(役職はNotebookセールス部門のField Sales Specialist)によると市場から羨望のまなざしを浴びている同社の2画面電子ブックリーダーはまだ市場からのフィードバックをもとに開発を続けているところであり、具体的なリリーススケジュールは明らかにできないとのこと。私は以前自作PCの市場にいたこともあり、ASUS社の技術には一目おいている。この業界においてやはり良質なマザーボードを作れるメーカーほど信頼できるものはない、というのが私の持論だ。(なので私が買うのはASUSかACERといった台湾メーカーのPCに偏る傾向があり、唯一の例外はリブレットからお世話になっている東芝だけである) コスメティックの問題さえきっちりすることができれば、同社のリーダーは先駆けて2画面を出しているEntourage社の物よりも優れたものになるに違いない。しかしタブレット機との棲み分けという課題は残るであろう。3G規格への対応は両方とも必須となってくるので、後はキャリアとコンテンツの争奪戦が繰り広げられるのは言うまでも無い。

少し予断になるが、海外在住の日本人として歯がゆく思うところは、日本におけるいわゆるアルファブロガーの少なさと社会の理解度の低さである。何より今のメディアはあまりに多様化してかつスピーディに展開する電子機器やオンラインマルチメディア、あるいはハイパーメディアといった先進的な業界の流れについていけていない。先日紹介したBOXEEの件などもそうだが、日本が独自規格を市場で推進している間に、グローバルで歩調を合わせようとする他の国際企業との足並みが全く揃わず、結果として市場で必要とされる情報も異なる。これによりプレス記者が追いかける情報も変わってくるので、結果日本のプレス勢が追いかける情報と例えば北米の商業ブロガーが追いかけるネタは違ってくるかも知れないし、何より同じトピックを扱っていても背景となる情報が全く異なるので同じような記事は書けず、結果として日本の今のメディア市場にある海外のニュースに関連した記事はほとんどが海外のレビューなどの焼き直し(あるいは単なる翻訳)か、日本市場のみを視点とした分析にとらわれ、結果として日本市場など目にもかけていない海外企業の視点をまったく理解することができないで終わる、ということにつながりかねない。こういう事態を解決するために業界事情に詳しいアルファブロガーをもっと多く育成し、海外に出させて視野を広げさせる体制を構築することも一つだし、あるいは海外在住の日本人ともっと密な連携を取るべきだと思う。(例えば、電子ブックリーダーのサイズを写真で伝えようにも、キンドルを持ってきて実際に比較して写真を取っていたのは私だけだった。ほとんどの記者の方はキンドルを見たことも触ったことも無く電子出版について取材をしようとされてるのではないか)

例えば私が見るCESは単なる商品の展示会ではない。CESは(今のところは)世界一の経済大国であるアメリカで一番大きな家電ショーである。ここに出展する企業は世界に向けてどのように自社のブランドと製品をアピールしていくのか、ということをデモンストレーションしているわけである。これはつまり、北米のみの展開に関わらず世界的な市場を今どのように捉えて比重をどう移そうとしているのか、デザイン面のトレンドをどう捉えているのか、競合との違いをいかにくっきり自社のブースに反映させることができるか、そういう話である。なので、このショーには毎年来ないと違いが分からない。本当に単純な憶測になってしまうが、日本のメディア(ニコニコ動画は生中継をするようだが)や企業がほとんど姿を見せていないのは去年のショー(私は来なかったが)が面白くなかったので費用対効果が低いと見られたからではないかと思う。しかし、今年のCESはすごい活気である。これは不況を背景に、世界的に生き残った企業がこれからシェアを拡大するための意気込みが伝わってくる展示会になっているからだ。また去年や一昨年のようにどこにいっても同じ商品が並んでいるということはなく、展示内容が多様化している(もっとも3DTVや3G通信、スマートフォンといったトレンドはもちろんある)のも今年の特徴だ。私は過去に何度もこのショーに来ているが、間違いなく今年が一番面白い。
減少した日本人に比べて、会場でリードを取っているアジア人はSAMSUNGを中心とした韓国陣営であり、それに大規模な新規出展をスタートした躍進する中国陣営、という構図になっている。本当に残念なことだが、いくつかの日本の古参企業に関しては相変わらず単なる展示会と割り切ってブースを出せばいいという気分で臨んでいるのがミエミエで、立ち寄る気もしない。

あとこれも電子出版には関係ないが、今年はこれまでよりも会場に色を添えるコンパニオンの服装や露出が派手になっており、背の高い欧米人コンパニオンが非常に多いように思った。これはグローバル経済の影響でロシアや東欧のスタッフ派遣が増えているということを示しているのかも知れないし、大金を出している中国系企業の嗜好が単純に反映されているだけなのかも知れない。いずれにせよ、本来は派手なE3ショーに比べてCESはどちらかというと地味だったのだが、今年はプレス室にいるせいもあるのか、そういうことにも気がついた。
(続く)

立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。在米歴20年以上。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(ともにDiscover21)など計六冊を上梓。