沢尻エリカのCNNインタビューについて ~ ZEN ENGLISH

普段はあまり芸能ネタを取り上げることのない当意力ブログ。(日本の芸能界のネタはもちろん日本在住の方々が書けばいいわけであるから、書く意義も意味もないと考えている)そんな硬派(!?)のソーシャルメディアブログを目指しているこのブログでも今回は少し触れておきたかった表題の件。

日本ではあれだけ話題になっても海外で話題になるようなことは滅多にない日本の芸能界の話題だが、その中においても今回のCNN GOの英語インタビューは例外かも知れない。この発端は7月に発表されたThe Tokyo Hot List 2010: 20 people to watch なる企画で彼女が一位になったことを受けてのものであろう。

筆者は芸能界の専門でもないし、あまり書くことに興味もないのでここでは全く別の観点からこのインタビューを取り上げてみる。それはずばり英語についてだ。ご存知の通りこのインタビューは沢尻エリカ自身が「英語で」語ったとされている。(そして、恐らくその通りだろうというのは読み進めてもらうとよく分かる)

筆者も少し興味があったので英語のインタビューをまず読んでから日本語版と読み比べてみたのだが、いくつかの発見があった。そして、個人的に非常に気になっている部分(これはインタビュアーに確認したいところだが)が数点あるので、それを書いてみたい。

インタビューに入る前の枕の最後の部分に彼女の英語力と態度についての言及がある。

Speaking near-fluent English, and without hesitation — a real rarity in Japan — confidence and self-assurance clearly runs through her veins.

Read more: Erika Sawajiri: Inside the head of Japan’s outspoken star | CNNGo.com http://www.cnngo.com/tokyo/life/erika-sawajiri-548777#ixzz0yrMFll8G

ここで、near-fluent と評された彼女の英語力だが、英語学習は最近始めたようなので彼女自身の英語力についてどうこういうつもりは一切ない。ここで、筆者の目を引いたのはこのインタビュアー(Robert Michael Poole氏)の意図である。near fluentと言うのは、「ほぼ流暢な」みたいなニュアンスだが、彼はこの「ほぼ流暢な」英語をできるだけそのままインタビューに反映させているということがよくわかる。(しかしこれは日本語の訳を読んだら当然分からない) 筆者が気になったのは、ここに彼自身の何らかの意図 (それがポジティブであるかネガティブであるか、あるいはニュートラルなのかはさておき)が反映されているのではないかということ。
このインタビューには、そう評された話題の人の英語が、(恐らくほぼ原文で)あちこちに引用されている。英語圏の読者にはこれらは非常に生々しく映るだろう。

例えば、のっけからの引用がこうである。

“My mum was born in Algeria but moved here from Paris when she was 24 or 25, met my father and stayed. My grandparents died already and I never met them, so I have no contact with my mom‘s side, but she has six brothers and sisters that I met when I was a child,” she explains.

Momというのはもちろん「お母さん」を示す単語 Mother の略称だが、何故か最初の方は Mum と表記されている。天下のCNNのライターなんだから、これはタイポ(誤植)だとは思えないのだが、気のせいだろうか?辞書を引くと、Mumはどちらかというとイギリスでの表記、一方 Mom はアメリカやカナダでの表記となっている。これは彼女の発音が安定していないのを揶揄したものなのか?つまり表記は発音のままで、最初と次からの発音が微妙に揺れていることまで忠実に再現したとか。考えすぎだろうか(笑)

それ以外にも時勢が揺れてたりなど、文章は口語体がかなり強い。一般的にはこういう場合はエディターが修正するのではないかと思うのだが、手直しし始めるとキリがないのと、そのままのほうがリアルである(英語圏の人々はいずれにせよ、ノンネイティブのスピーチに慣れている)という理由でそのままにしたのかと感じた。だから敢えて筆者は最初に彼女の英語力についての評をしたのではないかと。良くも悪くも、これがベストだったのだろう。それを翻訳者が翻訳した際には、全部きっちりまとめて翻訳しているので原文の荒っぽさはどちらかというと消えてしまっている気がする。(文章としては非常に綺麗なので、翻訳の質が悪いという意味ではない。原文のアンバランスさが薄まっているという印象はあるがこれはいたしかたない)

“Actually I was not really happy because I wasn’t satisfied with those songs. In fact I don’t know how they could possibly reach no.1. I thought everyone must be crazy to buy them. I didn’t like those songs, it was just pop.”

かなり否定文ばかりの文章(苦笑)だが、最後のところは和文では「歌謡曲みたいで」と訳されている。

“I just stopped and went to London, I wanted to live a normal life as a girl. I had to learn English, that was tricky, but it was a really good experience, I just went to school and after class we went to a pub to talk or drink beer.”

ここでのI had to で始まるセンテンスについては下記のように訳されている。
「英語を習わなくてはいけなかったし、難しかったけど、すごくいい経験になりました。」
Trickyという単語については翻訳者の苦労も見て取れるところだ。

英文
“That apology was a mistake!” says Sawajiri. “My agency told me I had to apologize, I kept refusing, I absolutely didn’t want to do it. I told them ‘this is my way’… but in the end I surrendered. That was my mistake.”
和文
「あれは間違いでした。前の事務所が謝罪しなくてはいけないと言ったけれど、ずっと断っていたんです。 絶対したくなかった。これが私のやり方なんだから、と。 結局私が折れて。でも間違ってた。」

原語のニュアンスはかなり強い。相当の感情があったことが伺える。

インタビューの締めくくりの部分は英語で読むとさらに辛口なのがよく分かる。

英文
“I think [restricting talent from having normal lives and expressing opinions] is a problem with the entertainment world in Japan, in fact it’s the biggest problem. I think the whole system is so old. The managers themselves are old but we have to change this situation.”
和文
「タレントが普通の生活を送ったり、意見を言ったりすることを制限するということは、日本の芸能界の問題点だと思います。一番大きな。そうしたやり方はとても古いものだと思う。年配の方たちも多いから。でもそうした状況は変えていかなくちゃいけないと思うんです。」

これから芸能界でやっていこうというのに、これだけその業界を痛烈に批判する彼女の姿は本当に豪胆だと思う。ただ、インタビューを通して否定文や否定的な内容が多すぎたのが少し残念だ。日本発の情報は世界にうまく発信されないことがあまりにも多い。このように、芸能人だけでなくみんなが英語力をあまり気にすることなくどんどん「肉声」を世界に発信していけるような環境が整えばいいのにと思う。

映画にしても文学にしてもそうだが、海外発の(外国語で書かれた)情報源に対しては原語ソースに触れることが重要だ、という点をまとめにして本エントリーを(無理やり)終えることにする。

立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。在米歴20年以上。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(ともにDiscover21)など計六冊を上梓。