第2章 キンドルの衝撃とバカの壁 2 – 電子ブック開国論 (17)

1.Kindleとは何か

Kindleという画期的な端末が目指すところはごく端的に言うと書籍の代替品である。そして、対象としている顧客層は日常的に書籍を購入するいわばインテリ層である。語弊を恐れずに言えば、アマゾンがイメージした顧客層は恐らく30代後半から50代までの可処分所得が多い高所得者層で、そのような顧客の大半の多くは高学歴(修士以上の学歴保持者)だったのではないか。男女比についてはほぼ均等であったのではないかと思う。そして、さらに突っ込んで言えばこのような層はアメリカにおいて人種的には多くが白人あるいはアジア人だったと思う。アジア人は人種的にはマイノリティの類に属するが、専門職についている比率が他人種より高く平均収入が高いという特性がある。また彼らの多くはいわゆるTechSavvy、あるいはEarlyAdaptorと言われる人々で、新しいガジェットや先進的な技術に大きな抵抗を示さない人々である。

下記にKindleの特徴をまとめてみる
• 「垂直統合型」モデルの実現
• しっかりとしたコンセプト
– スマートフォンやラップトップPCとの明確な差別化
• 無料3G通信→どこでもコンテンツを購入できる
• 国際版の発売→世界100カ国以上に出荷
• コンテンツの数が豊富である。→48万超のコンテンツを保有
– AppStoreよりも簡易な出版社登録とコンテンツ出版システム
• バッテリーのもちがいい省エネ設計(モノクロe-inkの採用)
– 4時間の充電で4日間
• iPhone/PCforKindleアプリの存在(*後にKindleforiPadが追加)
– Kindleの販売数よりも多くのユーザへのアプローチを可能に
• 1アカウントに対して複数のデバイスを登録可能。
• ブログや雑誌を発刊して月次課金をすることができる。
• 機能を制限することで低価格を実現
– Kindle2=$259.00KindleDX=$489.00

筆者は社用と個人的にこれまでKindleを3台以上購入しており、テストマーケティングも兼ねて多くの人に見せたことがある。この画期的なデバイスを最初に見た者の多くは概ね大きく分けて二つの異なる反応をするのが興味深い。ほとんどの人がデバイスに触れた際に最初に聞くのは「バックライトがないのか?」と「タッチパネルじゃないのか?」という二つの質問である。そして、E-Ink特有のスローな画面表示切替を見て、自分には向いていないと判断するのが一つのグループである。その後しばらく考えて、実際には本にはそのような機能がそもそも無いことに気づき、一しきり納得した後に書籍の価格や実際にどれくらいのタイトルが入手可能なのかを確認して、購入を真剣に検討するパターンだ。筆者はこの二つのグループを注意深く観察して、一つの興味深い事実に気づいた。それは前者の多くが日常生活で書籍を購入しない人々であり、後者は実際に書籍をかなり頻繁に購入する人々だったのだ。ではアマゾンがターゲットとしている層はどちらだろうか?お分かりの通り、それは明らかに前者である。アマゾンの本業はどこまでいっても「本屋」なのだから自明の理である。本屋を通り越して今やアマゾンは何万という商品点数を誇る世界一のオンラインストアになってしまっているが、彼らは本屋であるという自認を崩してはいない。そして、本を買う顧客のことを世界で一番理解しているのが彼らであるということも決して忘れてはいけない。(筆者も含め)本を日常的に読む人にとって、本を読むのに「明かり」が必要なのは当然のことだ。暗がりで読もうとして目を凝らせば目が疲れるし、視力が下がる懸念もある。そんなのは何十年という読書の習慣を身に着けているものにとっては当たり前の事実であり、電子書籍端末を見て一瞬脳内がトリップしたとしても、その事実にすぐに立ち返ることができるので利点を理解できるのである。実際に彼らはキンドルをこよなく愛しているし、iPadには見向きもしない者が多いだろう。

電子ブック開国論 16 17 18

立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。在米歴20年以上。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(ともにDiscover21)など計六冊を上梓。

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  1. […] 第2章 キンドルの衝撃とバカの壁2 – 電子ブック開国論 (17) | 立入勝義の意力(いちから)ブログ - 北米発IT情報・電子出版・ソーシャルメディア 2010.07.16 at 11:16 AM 1 […]

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