第3章 理想の電子ブックリーダーとは2 – 電子ブック開国論 (34)

話を元に戻そう。この話が電子出版と何の関係があるのか。それは電子出版の話になると決まってでてくる「電子ブック」や「イーブックリーダー」みたいな新しい単語である。多くの日本人は極めて保守的ないわゆる”LateAdapter”(レイト・アダプター)であり、彼らは先進的な”EarlyAdapter”とは異なり、新しいデバイスなどには心理的な抵抗を感じることが多い。(恐らく携帯電話もセル・フォンみたいな名前で最初にマーケティングしていたら普及が遅れていたのではないだろうか)マーケティングでは俗にバズワード(BuzzWords)と呼ばれるこれらのキーワードがむしろ日本の電子出版の開国に歯止めをかけている部分があるのではないかと筆者はにらんでいる。人間はこのような状態にある時、ついついその心理的な抵抗感や嫌悪感などから、過去の例を持ち出してすぐに拒絶をしようとすることがある。電子出版の話をしたら途端に「日本では流行らないからなぁ」と返すような手合いはそういうことからではないだろうかと考えるようにしている。もちろん過去にソニーのLIBRIeなどを含むいくつかの製品が失敗に終わっているし、これまで市場に普及してきていないのは事実なのだが、例えば日本のネットオークションでは先行していたサードウェーブのMYTRADEやSNSの「この指止まれ」(略称ゆびとま)などが後発のヤフオクやミクシィに負けてしまったということなど、過去の失敗がそのまま将来の失敗となる保証はどこにもないのだ。

逆に言うとそれくらいタイミングの問題というのが大きいことも事実で、せっかく格好のタイミングが訪れても、このような心理的な障壁で、言ってみれば「食わず嫌い」のままで二の足を踏んでいる状態があれば、そのチャンスをむざむざ逃がすことになる。なので、この壁を取っ払いたいという目的で話すとするならば、実は日本にはすでに「電子ブック」は存在する。そして、その市場規模は世界一で、この本を読む多くの人も実際に手にもったことがある。それは何か、電子辞書である。エンジニア出身のEBook2.0フォーラム主宰である鎌田氏によると、日本には電子辞書のマーケットが300億円以上の規模で存在するようだ。これら多くの電子辞書は複数の有名辞書を搭載している。しかもその内容も英和・和英に始まり、国語辞書、漢字字典、諺辞典など多彩になっている。もっともこれらは専用端末であり、もちろん3G回線もインターネット連携の機能も搭載されていないのだが、それは簡単な話である。しかしすでにぬるい既得権益に浸っている大手業者ここでも恐らく画期的な次世代機種に移行しようとは考えないだろう。黙っていても買い替えが発生し、学生が進級したり進学したり、あるいは就職するたびに儲かるおいしい市場だからである。しかし、丸山真男の言葉を借りる訳ではないが、「権利の上に眠る者」の利権はそうそう続く世の中ではなくなっている。後に理想のリーダーの章で述べるような製品が現実化した際にはあっという間に消えてなくなってしまう可能性を含んでいるのだから。

イーブックリーダー比較表
(表 割愛)

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立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。在米歴20年以上。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(ともにDiscover21)など計六冊を上梓。

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