アマゾンの次なる秘密兵器!? Kindle for the Web の衝撃

アマゾンがまたしてもやってくれた。あまり「衝撃」という単語を使い古したくないのだが、この場合はこの形容詞が一番似つかわしいと思った。アマゾンはクラウド環境による囲い込みを電子書籍市場で着々と進めており、その「陣形」もはや終盤という感が強い。

Amazon Launches Kindle for the Web
Readers can now read the first chapter of Kindle books for free through web browsers – no download or installation required
Bloggers and website owners can embed Kindle book samples and earn referral fees on sales
このKindle for the Webはダウンロードやインストールが一切不要でブラウザーだけで機能するらしい。
また、アフィリエイトのようなブロガー向けの収益プランの工夫もあるらしい。

詳細はコチラのページで確認できる。

コンテンツ例
コンテンツ例

最初の章はタダ読みできるようになっているようだ。フォントのサイズや行間、そして背景などを変更することができる他、お気に入りの本をツイッターやFacebook、あるいは電子メールなどを介して友達や家族と共有することもできる。これら全てがブラウザ内で完結してしまうらしい。
また、著者がこのツールを使って自著を宣伝することもできるということで、Karen McQuestionHey Miller という著者のブログが例に挙げられている。これは電子出版では著者が自作を宣伝していくしくのが主流になる、ことを示唆するものであり、Sebastian Jungerや意力運営の電子出版SNSのような著者運営のSNSでの動きとも親和性が高いので今後拡大していくことも十分考えられる。

これにより著者と読者の距離はぐっと縮まることになるので、双方の側から受け入れられるだろう。今後このような中抜き型直接マーケティングは勢いをどんどんまして行くだろう。

さて、これまでAmazonの動向をずっと追いかけてきた筆者でも一瞬混乱したくらいなので、読者の中にはこの Kindle for the Web が一体これまでのキンドルアプリとどう違うのかについてよく分からない方も多いと思うので補足したい。

キンドルというのはご存知の通りアマゾンの電子ブック端末のことで、電子書籍専門のストア「キンドルストア」を運営している。本を売ることを生業としているアマゾンはこの画期的な端末で本を販売するのみならず、この端末以外のプラットフォームにも本を売ることができるように、端末別の対応アプリを提供してきていた。利用しているアプリや端末を問わず、自分のIDを使ってキンドルストアで購入したコンテンツは全て共有できるようになっているので大変便利だ。またキンドルストアは購入履歴を記録するので、一度購入したものは二度と購入する必要がなくダウンロードすることができる。

これまでにリリースされてきたアプリの一覧(順不同)

Kindle for iPhone/iPod Touch
Kindle for PC
Kindle for iPad
(*アマゾンは27日にはブラックベリー系の新しいタブレット端末Playbook向けのアプリもリリースした)
Kindle for Android
Kindle for Mac
Kindle for Blackberry

このリリースによるとキンドルストアの蔵書はすでに70万タイトルに上り、そのうち57万5千冊は10ドル未満で販売されている。またNYタイムズのベストセラー111冊中108冊を網羅している。これ以外にも180万冊のパブリックドメインのコンテンツがあるので、総合の蔵書数は250万冊にも及ぶことになる。

独自の端末をもちつつ、それ以外のユーザーもターゲットにするハード別の囲い込み戦略を実践してきたきたアマゾンは、上記のアプリ群でほぼ全てのハードを対象に捉えてきた。そして、ついにブラウザベースで稼働するアプリを投入してきたのだ。これでもちろんApple TVの対応も視野に入るようになってきた。一件これまでの戦略と矛盾しているかに思える今回のアプリ(!?)だが、クラウド化という点では今回のブラウザ対応が最終形態であるかと思える。サファリブラウザーやiOSの標準化で囲い込みを図るアップルの戦略によく似ていることを感じる方も多いに違いない。これまで Kindle for PCやMacを使っていたユーザーは必然こちらのブラウザ型に移動するであろう。(オフラインではもちろん使えないのでその場合はこれまで通りアプリを使うこととなる) 

つまりこれによりアマゾンはハードとソフト、オンとオフ、独自端末と他社端末というある意味垂直統合のグランドスラムを達成したようなものだ。アップルといういわばライバルが身近にいながら、ここまでの陣形を組み上げたというのはアッパレという他ない。これでアマゾンは名実共に「クラウド書店」の名を欲しいままにするだろう。ちなみにKindleは今や第三世代で価格もかなり安く(Wi-Fi版は139ドルと破格)なり同業他社製品の追随を許していない状態、アプリもほぼ全ての他端末を網羅するようになってきた。アマゾンの勢いは止まらない。

立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。在米歴20年以上。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(ともにDiscover21)など計六冊を上梓。

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